●『トナカイが女王で、サンタが男の娘で…?』
「はぁ? サンタクロースの格好せぇ言うんはまだ分かるけど、なんでミニスカなん!?」 「……罰ゲーム……です……」 (「うわー、なに? この子、何でこない満面の笑みしとんの? そんだけボク虐げるん好きか。嫁の貰い手あれへんぞ、将来」) 愉悦をいっぱいに湛えた笑顔を見せるフレスティータに、久遠は言葉に出さずにただただ嘆息する。 元々、勝負を挑んだのは久遠の方なのだ。 中間テストの点数が上だった方が、相手に一つ罰ゲームを科す。 自分から言い出した以上、久遠としては受け入れるしかない。 (「それがどないに恥ずかしい事でも、か。かなわへんなぁ〜」) 急かすフレスティータに背中を押され、少女の部屋へとお邪魔する。 「……さぁ……どうぞ……」 「厄日や……」 うな垂れながら、少年はフレスティータの用意した衣装に着替えだす。 ミニのフレアスカート、上着、肘の上まである手袋にハイニーソ。 「……下着……忘れてます……よ……」 「マジ? これ、着けろ言うんか?」 「……バッチリ……」 親指を立てるフレスティータに『なにがバッチリやねん』と言いたいのを堪えて、縮こまりながら下着も履き替える。 幸いにというか、下着は新品だったので、その点では抵抗が薄い。 (「全然救いになってへんけどなー」) 「って何脱ぎだしとんのや!?」 「……トナカイに着替えるだけですよ……?」 当たり前のように目の前で着替え始めるフレスティータに、久遠の方が慌てて背中を向ける。 そうしてお互い『変身』が完了し、久遠は罰ゲームの一環としてフレスティータに上から下まで眺め回される。 「……グッド……」 「野郎の絶対領域なんか何が面白いねん」 嬉しくて――いや、面白くてたまらないという表情で親指を立てて賞賛を表すフレスティータだが、久遠の方はただただ憂鬱なだけである。 「……さぁ……皆様にお見せする記念写真を……撮りましょう……」 「――は? 写真? いや、聞いてへんし」 せめてスカートの裾を下に引っ張って、少しでも体を隠そうとしていた久遠にかけられたのは、『記念撮影』の四文字だった。 「ない! それはない! それだけはアカンて!」 「……うるさい……ですよ……」 「――うわぁっ!?」 こんな姿を写された日には、一生ものの汚点になりかねない。 当然といえば当然の猛抗議をする久遠だったが、トナカイ姿のフレスティータに後ろから蹴りを入れられ、体勢が崩れたところをすかさず激写。 そのまま、『一度も二度も同じ』とばかりになし崩し的に撮影会に持ち込まれるのだった。 (「……クリスマス……別に関心はありませんが……くぉんを弄るのには……良いイベントですね……」) 悪魔も裸足で逃げ出しそうな黒い笑みを浮かべるフレスティータと、あまりの境遇に目尻に涙を浮かべてくすんくすんと鼻を鳴らす久遠。 二人のクリスマスは、色々な意味で『特別』な、忘れられない思い出となるのだった。
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