●『クリスマスケーキの誘惑』
「「「メリークリスマース!!」」」 合図とともに仲間内でのパーティが始まる。 二種類ケーキが会場内マンバーに配られた。 人数の関係上、ケーキはどちらか一方、一つしか食べられないのだが。
ざわざわとした会場の一角、晴人は壁に背を預けつつ内心歌を歌っていた。 (「クーリスマスなーのに進展は何もなしっとくらあ♪」) 歌いながら、晴人は生クリームのケーキにパクリと齧り付く。 (「……泣いてないよ? 別に泣いてないよ?」) 心の中で否定し、晴人はちらりと仲間の一人――玄哉の私服をチェックした。 今日も玄哉の恰好は男らしい。 (「しかしまー相変わらずスカートはいてくれないねー。可愛いと思うんだけども」) そう思いつつ、もう一口ケーキをパクリ。 (「……あー、ケーキだけが俺の心の癒しだわ」)
……そんな晴人が玄哉の視界に映った。 晴人の思考など小指の爪先も気付かず、玄哉は目を輝かせる。 「お……!」 今夜、一種類……一つしかもらえないケーキ。チョコレートケーキを選んだ玄哉の目に、生クリームのケーキを食べている晴人が映った。 「これ幸い」と玄哉はワクワクと晴人に近づく。
晴人はケーキの一口分をフォークに刺していた。 近づいてきた玄哉に気付き「……ん、何よ?」と瞬く。 「どうしたの、玄哉」 玄哉は晴人に応じないまま、突然フォークにパクリと齧り付いた。 「え?」 一瞬、晴人は状況が理解できない。 「え、あれ、ケーキ!? え??」 グルグルと思考が巡る。食べられたケーキ。齧り付かれたフォーク。……晴人が、使っていた……。 (「ちょ、これ間接キ……いやいやいやいや!?」) 晴人は顔を上気させた。 そんな晴人に気付かないまま、玄哉はくしゃっと表情を崩す。 「うーん、ケーキ美味ぇ」 ……それは、非常に満足そうな玄哉の呟き。 やや呆然としている晴人に気付くと玄哉は「ごちそーさん」と笑った。 二種類のケーキが堪能出来て、玄哉は大満足だ。
(「――えええええええ!!?」) 玄哉の笑顔に……言葉に晴人は色んな思考――妄想を巡らせる。
――二人の思考は交わることのないまま……クリスマスの夜は更けていった。
| |