永月・ヒナノ & 鬼灯・遙

●『はる☆ひなのクリスマスナイト♪』

 そこは学生達がクリスマスパーティーを行う為に造られた会場だった。
 大きなツリーが立てられ華やかな飾り付けがされ、ほんのりと明るいランプが会場を穏やかな灯りで照らしている。
 テーブルには純白のクロスが敷かれ、その上にはケーキやチキン等、様々な料理や飲物が用意されていた。
 こういった日だからこそというべきか席を埋める殆んどがカップルで、楽しげに、あるいは少々気恥ずかしげに、それぞれのクリスマスを楽しんでいる。
 その……殆んど、というのが問題だった。
 殆んど等という場合……大抵は数組程度、そうでない者達がいるはずなのである。
 だが、この会場に限っては……カップルでないのは、一組だけだった。

 例えて言うなら……瘴気の様なとでも言うべき何かが漂っていた。
 様々な雰囲気がありはするものの会場を包んでいる空気は総じて穏やかで暖かだった。
 だが……その一角だけは……違った。
 どんよりとした何かが、じんわりと漂い、周囲のテーブルにまで重々しく、暗く、張り詰める様な空気を漂わせていた。
「ちょっと、ひなのん! 今あそこの二人こっちチラ見しましたよ、あっ! ほら、また!!」
「く、屈辱です……カップルなんて…………カップルなんてーーー!!」
 遥の言葉にヒナノは手に持っている何かをわなわなと握り締める。
 それは……何故か……スルメだった。
 そのテーブルは何か、どこか……奇怪しかった。
 用意されていたケーキをはじめとするクリスマスを彩る料理の数々は隅へと追いやられ、ヒナノが握り締めているスルメをはじめとして、柿の種やらサラミ、チーズ鱈……等々、お酒のおつまみに似合いそうな品々が、さながら平穏を乱すテロリストの如くテーブル上を占拠している。
 おつまみ達のリーダー的存在といった様子でそれらをテーブルに散開させた二人は、色々あるものの単純に表現すると……凄い目つきで、周囲を威嚇するように眺めていた。
 日本古来より存在していた森羅万象を汚染する呪われた『言葉』の使い手、それが呪言士です……目つきは関係ないのかも知れないが、二人ともそんな説明に相応しい雰囲気を漂わせている。
 あと、チキンに突き刺さっているフォークもその方向に雰囲気を盛り上げていた。
 近くのテーブルのカップルがその光景に冷や汗が止まらなくなるほどの何かを感じるのに、そのオブジェと化したクリスマス料理は一役買っていた。
 そんな空気を一層盛り上げる様に、二人のつぶやきが響く。
「……遥さん、なんだか憐みの視線を感じますよ!? 勝者の余裕ですか!?」
「あー! めっちゃムカつくっ!!」
 何かが弾ける様な音と、無残に引き裂かれる様な音が二人の声に重なる。
 周囲のカップルが目にしたのは……中身が飛び出さんばかりの勢いで開かれた柿の種の袋と、傘の部分から喰いちぎられるように二つに分かれたスルメの姿だった。

 クリスマスの夜は……過ぎていく。



イラストレーター名:水瀬るるう