守森・姫菊 & 山科・月子

●『まどろみのクリスマス』

 いつもと違うのは、今夜がクリスマスイブである、という点だけだった。
 街がクリスマス一色に染まっているので姫菊と月子も、姫菊の部屋でささやかながらのクリスマスパーティーを開いていた。
 二人はお互いに用意したプレゼントを交換し、中身を同時に開けてみる。
「あ、手袋ー。可愛いわー」
 月子から姫菊に贈られたプレゼントは、可愛らしいデザインの手袋であった。姫菊はそれを月子の前で一度手にはめてみた。温かい。
「こっちは……、あ、ネイルのセットですね」
 姫菊が月子に贈ったのは、ネイルアート用の道具一式だった。この間出たばかりの品だ。
「ありがと、月子ちゃん」
「こちらこそ、ありがとうございます。守森先輩」
 お互いの好みをよく知っているからこその、お互いによく吟味された品であった。
 姫菊はもらった手袋を料理とケーキが並べられたテーブルの上に置き、月子はネイルアートセットを自分の鞄の中に仕舞い込む。
 二人で作った料理は程良く減っており、今日のために買ったケーキも程良く無くなっていて、二人だけのパーティーは程良い感じでいつの間にか終わっていた。
「……そろそろ0時ですね」
 壁に掛けられた時計を見て、月子が言う。
「あら、もうそんな時間なのね」
 イブはもうすぐ終わり、クリスマスがやってくる。しかし、街の人々にしてみれば、今からこそがイブの本番なのだろう。
 だが、二人にとっては今夜もさして変わらない。特別な夜と言えるほどに、特別であるとも思えず、時間はいつも通りに過ぎていくのだった。
「ふ、……ん〜」
 伸びをした月子が軽く目を擦る。それを流し見ていた姫菊が、小さく微笑んだ。
「眠いの?」
「んー、……少しですけど」
 月子は答えながら大きなソファにゴロリと転がり、クッションを二つ重ねてそこに頭を置いた。
「本当に少しなのぉ?」
「少しです、よ……?」
 と、言いつつも、月子は目を閉じて、身体から力を抜く。そして数分もしないうちに薄く開かれたその唇から漏れる、小さな寝息。
「ふーん、これで少しなんだ」
 おかしそうに笑いながら、姫菊は読みかけの雑誌を手に取った。
「はいはい、ちょっと足どかすわよぉ」
「……ふぁい」
 姫菊はソファに腰掛けて、自分の膝の上に月子の足を乗せた。その状態で雑誌を開く。
「あ、この服欲しいなー」
 可愛い服を見つけて呟いてから、姫菊はまたチラリと寝ている月子を横目に見た。
「月子ちゃーん」
「…………ふぁい」
 ほとんど夢の中にいながらも、月子は律儀に反応を返してくる。
「今度一緒にお洋服買いに行こうよ」
「…………ふぁい」
 カクンカクンと寝ぼけながら頭を上下させる月子が、また面白かった。
 姫菊が視線を雑誌に戻し、ページをめくる。
 月子は心地よいまどろみの中に身を浸して、「ん」と小さく声を出した。
 今夜はクリスマスイブ。
 二人にとっては、いつもとちょっと違うだけの、それはいつも通りの夜だった。



イラストレーター名:バージニア