●『初めてのクリスマス〜サンタさんを待とう!〜』
遠くで演奏されるクリスマスソングが、ベッドに入った玲螺の耳にかすかに届く。 今夜、何度目かの寝返りをうつ彼女の胸元で、抱きしめられているモーラットのしらたまが不安そうに鳴いた。 「もきゅー?」 羽根ふとんよりもやわらかな、しらたまの手触り、そして温かさがゆっくりと玲螺を夢の世界へと誘い出す。 眠りに落ちていく一瞬の間に、今日の様々なことが思い出された。 街を歩いてみれば、今日は何かのお祭りらしく街中が活気に溢れていたこと。 道を歩く人の誰もが楽しそうで、友達も玲螺もしらたまも楽しくなったこと。 しげじいへ、今日のお祭りについてたずねてみたこと。 「本日は、お嬢様のようないい子へ年に1度、はるか北よりサンタクロースと呼ばれる贈り物を持った老人が、訪ねてくる日にございます」 それが『クリスマス』なのだと、しげじいは穏やかに微笑んだ。 それを聞いてからはいつにも増して、『いい子』でいた玲螺は、しらたまと一緒に早々にベッドにも入った。 「だから、サンタさんは絶対来るのじゃ!」 「もっきゅー!!」 しかし、サンタの事が楽しみすぎて逆に目がさえてしまう。 それなら、と子供が起きている間には、決して現れる事の無いと言う老人を一目見たくて、玲螺はベッドの中で寝た振りをしてみるが、そうしている内に本当に彼女は眠りへと落ちてしまった。 穏やかな眠りの中、彼女はどんな夢を見ているのか。 玲螺の胸で眠る、しらたまも幸せそうに目を閉じている。 やがて夜が明け、朝日の眩しさに玲螺がうっすらと目を開けると……。 枕元には2つの箱が置かれていた。 思わず起き上がる玲螺の動きに、目を覚ましたしらたまもきれいに包装された小箱に気がついた。 1人と1匹は、互いに目を合わせると同時に小箱を手に取った。 「サンタさんからのプレゼントなのじゃ!」 「もきゅー♪」 早朝の屋敷に響く無邪気な声に、しげじいも思わず手を止めて微笑む。 1年間『いい子』にしていた子は、サンタからのプレゼントが贈られる。 それがクリスマスの日の約束なのだ。
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