●『大好きです、大好きでした…だから今日は、ありがとう』
キャンディー、ゼリービーンズ、アイシング──校庭の一角に、大きなお菓子の家が完成しつつあった。 まるで絵本から飛び出したような建物を目の前にして、大の甘党のノエルはそわそわしている。 落ち着かないノエルの隣にはアリーセが静かに立っていた。 アリーセは、いつまでもきょろきょろしているノエルのコートの裾を掴み遠慮がちに引っ張る。 「え?」 ノエルは小首を傾げ、お菓子からアリーセに視線を移した。 アリーセは小さなため息をついて何かを決意すると、ノエルの瞳を見つめ真剣な表情で気持ちを伝えた。 「大好きです、大好きでした……だから今日は、ありがとうございました」 アリーセは、あの夏の日が忘れられなかった。 砂浜で告白して、貴方に振られて、それでも今日この日、一緒にいてくれて──。 声にならない言葉を、心の中で囁き続ける。 その複雑な感謝の意に、ノエルは困惑した表情を浮かべた。 しかしすぐに優しい笑顔を浮かべて、アリーセに返す。 「……僕の方こそ、ありがとう」 ノエルの優しい言葉に、アリーセも自然と柔らかな笑みがこぼれる。 微笑み合うその時を待っていたかのように、お菓子の家の完成を知らせる合図が入った。 二人は一斉にお菓子の家へ顔を向けると先程までの雰囲気はどこへやら、満面の笑みを浮かべて感嘆の声を上げる。 赤、青、黄。色とりどりのチョコレート。 四角、丸、ハート。さまざまな形のクッキー。 落ち着いていたはずのアリーセが、待ちきれないといった様子でお菓子の家を指差す。 「……ほら、行きましょう! どうやら出来上がったみたいですよ」 その声に促されるように、ノエルが慌てて走り出した。 アリーセは、そんなノエルを背中をじっと見つめながら消え入りそうな声で呟く。 「これからは……かけがえのない大事な親友として、よろしくお願いしますね」 大好きです、大好きでした──。 こぼれそうな想いをその場に残し、アリーセも後を追って走り出した。
| |