●『X'mas 2009 オカン来襲?!』
「メリークリスマス」 「メリークリスマスなの」 二人の声が、暖房のきいた部屋の空気を震わせる。 可愛らしいクリスマスツリーに、家庭感溢れるコタツ。 今年のクリスマスは、彼氏である衛の自室で行われたのだった。 お互いにプレゼントを交換し、ノンアルコールのワイン風炭酸飲料で乾杯をする。 二人っきりのイブの夜は楽しいこと違いないが、お互いにそれ以上に気になることがあって今ひとつのり切れていない。 (「うう、緊張するの」) (「ああ、杏奈さんに変に思われるかもしれない。でも、気になります」) 表向き会話に花を咲かせているのだが、衛も杏奈も、ついつい部屋の隅にあるベッドの方に視線が向いてしまう。 三年前の衛の告白から始まった交際だが、いままで行ったのはキスだけ。 お互いにそれ以上へと踏み込めなかったのだが、今日は特別な夜だ。 それに母親が夜勤で一晩帰らないとあって、どうしても『それ以上の事』を意識してしまうのだ。 「……っ!」 「……っ!?」 何度目かのベッドへ向けた視線が、杏奈のそれとぶつかり合う。 反射的に見つめあった後、互いに顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。 「あ、あの、杏奈さん!」 「は、はいっ!」 気まずい沈黙を破る、意を決した衛の声に杏奈が跳び上がらんばかりに反応する。 強く握り締めてくる衛の手を、少女がおずおずと握り返そうとした――その時。 「衛、ただいま〜〜」 突然シフトが変わったのだと、衛の母親が帰宅する。 「あらあら? お母さん、お邪魔だったかしら?」 「そ、そんな事無いよ」 「お、お邪魔してます」 慌てて離れる二人を見て、面白そうなものを見つけたと笑みを浮かべる母。 「も、もうこんな時間だし、わたしそろそろ帰ろうかなって……」 「そ、そうですね、送ります」 逃げるように暇乞いをする杏奈に同調し、母親の好奇心の餌食にならないうちに衛はさっさと部屋を抜け出す。 「――あ、あの、それじゃあここで」 「う、うん……」 寒さも感じないほどに先程の驚きが尾を引いた彼女への家への道のり。 別れ際、これからもよろしくという少女に言葉を返しつつ、衛は複雑な感情を抱える。 今の関係のままでいられる安心感と、その先に進めなかった気恥ずかしさや残念さ……。 ままならない現実に胸を重くしつつ帰宅した衛を待っていたのは。 「あら、アンタ、帰ってきたの? 今日は泊ってくるかと思ってたのに。それ位の甲斐性、お父さんはあったわよ」 という、結局今日もキスどまりだった息子に対する、母親からの残酷なダメ出しなのだった……。
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