●『〜銀盤の円舞(ワルツ)〜』
――どてん。 「……痛いです」 本日、何度目の転倒だろうか。 基本的にスケートが苦手なのか、悠は中々うまく滑れずにいた。 「大丈夫か……ほら」 彼女に付き添うようにして滑っていた裕也は、手馴れた感じで手を差し伸べ起き上がらせる。 「ありがとうございます、裕也さん」 「はは、もう何度目か解らないけどな。しかしこのままというのは……よし」 裕也は彼女の手を掴んだまま微笑み、 「一緒に滑るか」 「……はいっ」 そのまま滑り始めた。彼女がバランスを崩さぬよう、緩やかなペースで。 ……ゆっくりと流れていく時間。 その中で二人は、思う存分スケートを楽しむ事が出来た。
スケート場を出た後、二人は軽くショッピングを楽しんだ。 その時間もまた、至福の一時。 ショッピングを終えた帰り道……気付けば陽が落ち、夜になっていた。 「随分と、遅くなってしまいましたね」 「それだけ楽しかった訳だな……ん?」 裕也の目にクリスマスイルミネーションで彩られた広場が映った。 この時期にしては珍しく、そこには誰もいない。 (「……ここなら、丁度良いか?」) 彼女へのプレゼントを用意してはいたものの、渡すタイミングが中々掴めなかった裕也にとっては好機である。 「ええと……ちょっといいか?」 いきなりどうしたのだろうか? と疑問を抱きつつ悠は彼と一緒に広場――イルミネーションの下へとやって来た。 しばし、静かな時が流れる。 彼女にプレゼントを渡す。ただそれだけの行為なのだが……こういった事に慣れていない裕也は中々渡せずにいた。 「……これ、受け取ってくれないか」 意を決し、照れながらも悠にプレゼントを渡す。 「……え、あ、ありがとうございます!」 突然の事に驚いたものの、それはすぐに喜びへと変わり、悠はその勢いに乗じて行動を起した。 「……実は、私も持ってきてるんです」 実は悠も同じ心境だった。彼へのプレゼントを用意していたものの、いつ渡そうかと……。 「あ……ありがとう、な」 プレゼントの中身は指輪と懐中時計。 それぞれが相手に似合いそうな物を一生懸命選んだ品である。 少しの間、互いに照れ隠ししつつ俯いていたが……。 「ふふ。おかしいですね、一緒のことを考えてるなんて」 「ああ、全くだ」 ふと顔を上げて目が合い、思わず笑い出す二人。 行動が似ていたのは互いに愛し合っている証なのだろうか。 だから、タイミングを合わせた訳でもないのに次の行動も一緒であった。 二人同時に、笑顔で――。
「「メリークリスマス!」」
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