●『或斗の事驚かせちゃおうね♪』
「疾風。生地に並べた型の上、ぎゅーって押すと可愛いクッキーができるから、手伝ってね?」 「がぅ!」 てふは伸ばしたクッキー生地の前に待機する、真ケルベロスベビー・疾風に説明する。疾風は元気よく返事をして、言われた通りに型抜きを始めた。丸い手が、金属製の型をぎゅっとクッキー生地に押し付ける。 それを確認すると、てふ自身は特製ケーキの最後の飾りつけを始めた。クリームを広げて、苺を乗せて、デコレーション。 「或斗のこと、驚かせちゃおうね♪」 「がぅ!」 目的はただひとつ。出掛けている彼氏──或斗に秘密で、今宵のイベント・クリスマスに備えて準備を行い、彼を驚かせて、楽しい夜を過ごすこと。 今年からは、疾風も一緒だ。楽しいクリスマスになるだろう。 型を抜き終えたらしい疾風の前で、余った生地をめくってやる。すると、抜かれたクッキー生地がずらりと並んで、疾風は目を輝かせた。 「上手にできたね!」 どこか自慢げな疾風の頭を撫でて、てふが褒めると、疾風も嬉しそうに目を細めた。 型抜きの終ったクッキーは手早くオーブンに移し、残った生地を伸ばし直して、再び疾風の前に広げる。疾風は待ちきれない様子で、てふは笑って「ちょっと待ってね?」なんて言いながら、せっせと生地を伸ばした。 すぐにケーキは完成して、クッキーも焼き上がる。 できあがったばかりのクッキーを疾風と半分こしたりしつつも、クリスマスらしい衣装に着替え、疾風の尻尾にもクリスマスカラーのリボンをつけて、準備は万端。後は、彼の帰りを待つばかりだ。 「或斗帰ってきたら、ちゃんとオカエリってするんだよ?」 「がぅ♪」 リースも飾って、ツリーも置いて、おいしいお料理もたくさん用意した。ケーキだって頑張って大きいものを作ってみたし、クッキー作りも疾風に手伝ってもらった。 プレゼントだって、疾風も入れて、3人お揃いのマフラーを用意した。 「……或斗、喜んでくれるかな……?」 「がぅっ!」 そんなてふの全力の努力を知っている疾風が、力強く応じる。それが嬉しくて、てふは「……えへへ」と疾風の頭を撫でた。 「早く或斗、帰ってきたらいいね」 彼が帰って来たら、思い切り飛びついて、キスをしよう。 疾風の言うように、彼はきっと喜んでくれる。笑ってくれる。 それから3人で、楽しい楽しいクリスマスを過ごそう。 そしてまた、来年も。 少し気の早いことを考えながら、てふは幸せそうに微笑んだ。
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