●『しあわせなひととき〜花に囲まれ〜』
オレンジ、赤、黄色に紫。おまけに白もトッピングして。 (「ここに……こう……」) 色とりどりの花が咲く室内花壇で、星華はしゃがんで花を摘んでいた。 持っている花束に一輪加えたら少し眺め、首を傾げながら位置を調節する。しばらくして彼女は一つ頷くと、くるりと後ろを振り返った。 「どうですか?」 視線の先にいる海藍に、星華は出来かけの花束を差し出す。その髪が、動きに合わせてふわりと揺れた。 「うん、すごくいいと思う」 海藍は、彼女と花を見てそう答えた。 それを聞いた彼女は嬉しそうに笑って、再び花を摘む作業に戻る。先程から、それを何回くり返しただろうか。 (「……楽しそうだな」) 温室の隅に置かれた、古いベンチに座っている海藍は、心の中でくすっと笑って呟いた。 星華は広い室内花壇をあっちこっち移動しながら、花を摘んでいる。 けれど、ずっと花に夢中になっているわけではなく、たまにこちらを、少し心配そうな目で見るから。 (「大丈夫、ここにいるよ」) 声に出さない言葉を、目が合う度に彼女に送った。
「こんなものでしょうか……」 出来上がった花束を目の前まで持ち上げて、星華が呟く。 自分の努力の成果に満足して、彼女は一番に見せたい相手の元へと急いだ。 「…………」 けれど、星華がベンチのところまで戻った時に見たのは、顔を少し下げて眠る海藍の姿。 すー、と小さな寝息が聞こえてきた。 (「……ど、どうしましょう……こんなところで寝たら風邪ひいてしまいます」) 彼を起こすべきだろうか。でも、とても気持ちよさそうに寝ているし……。 星華は助けを求めて周りを見回した。しかしあいにく室内には誰の姿もない。 「ふぁ、海藍さん……?」 花束を手に持ったまま、星華は空いてる手でおそるおそる肩を揺すろうとした。 そこでふと、海藍の手が目に映る。 なんとなく。 なんとなく星華はその手に自分の手を重ねてみた。 いつも守ってくれる、大きな手。温かい体温が手のひらから伝わってくる。知らず微笑んでいた星華は、意を決してベンチ座り、寝ている海藍の肩に自分の頭をのせた。 彼が起きる気配はない。 隣からは相変わらず規則正しい寝息が聞こえてきて、なんだかくすぐったかった。いつもは大人びた彼が、子どもみたいに感じられたから。 (「もし今、敵が攻めてきたら、私が海藍さんを守りますからね」) 花に囲まれた室内で、温かくてゆったりとした時間が流れる。 寄り添ったまま、いつの間にか星華も眠ってしまった。
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