●『サンタはプレゼントを持ってくるの』
まるで雪のように白かったその部屋は、これからやってくるサンタのためにクリスマス色に飾り付けられていた。 部屋を飾り付けた華乃歌は、ベッドの上に腰掛けてドアの方を眺めている。 まだかな? もうすぐかな? 募る期待が大きいからか、両足がブランブランと揺れていた。 しかし、しばらく待ってもサンタは来ない。待ち合わせの時間ももうすぐ過ぎてまいそうだ。こうなってくると、期待のいくらかが今度は不安に変わってくる。 来てくれるよね? 来てくれないのかな……? 胸の奥で想いが軋む。不安はさらに増大していって、やがて、時計が待ち合わせの時刻を指した。――と、同時に、 「プレゼントを届けに来たぜー!」 ドアが開かれると共に、威勢のいい声が部屋の中に響き渡った。 華乃歌が待っていた相手は、黄色いモノクルとネコミミ、さらには背に翼を付けた一風変わった風体のサンタだった。 「……おそぉい」 不安が消えて、代わりに押し寄せて来た安堵を味わいながら、華乃歌はベッドから降りてサンタ姿の章の方にトテトテ歩いていくと、彼を見上げて小さく頬を膨らませた。 「ああ、ごめんな」 章は小さく笑って華乃歌の頭を優しく撫でた。それだけで、華乃歌の中にあった不満はスッキリ霧散した。 「……めりぃくりすます、章」 笑いかけてくる彼女に、章もまた心安らぐ笑顔を返して、 「メリークリスマス。そして、お誕生日おめでとう、かのちゃん」 その言葉を聞いて、華乃歌は思いっ切り目を丸くした。 「……おぼえててくれたんだ?」 「当然、だろ?」 驚く華乃歌の目の前に、章が取り出したプレゼントを見せた。それは、可愛い桃色兎のぬいぐるみ。 「今日からよろしくね、かのちゃん」 と、章が兎の手足を動かして見せた。 その、彼の胸に、堪えきれなくなった華乃歌が飛び込むようにして抱きついた。 「……ありがとう。……だいすき」 章は、華乃歌をしっかりと抱き留めて、その腕で彼女を包み込む。 全身を通して伝わる彼の温もりに、華乃歌の心はどこまでも満たされていって、彼を見上げながら目を細めて笑った。 二人だけのクリスマスパーティーが始まる。 それは、二人だけでゆっくりと過ごす、あたたかで穏やかな、幸せに浸れる時間だ。 この幸せが、少しでも長く続いて欲しい。 そう願いながら、華乃歌は章から渡されたプレゼントのぬいぐるみをしっかりと抱きしめるのだった。
| |