●『内緒のクリスマス』
クリスマス。恋人達は浮かれ、子供達はサンタクロースを心待ちにし、街が優しく賑わう日。歌戀と三樹も、そんな空気の真っ只中を楽しげに歩いていた。 そう、ふたりはデートの帰り道。赤と緑に彩られた通りを歩き、色んな店を見て回り、最後は結社の友達に幸せのお裾分け。綺麗にラッピングされた箱を持って、ほくほくのえびす顔でふたりはケーキ屋を後にした。 中身は皆で食べようと思って買った、プチケーキの詰め合わせだ。あれもこれもときゃっきゃしながら選んでいるうちに、人数分より大幅に多い数を買ってしまったらしい。 「もう、すっごく美味しそうでしたものね! 見た目も可愛くって!」 「はい。こうして箱に入れて持ってるだけで、甘い匂いが漂ってきそうで……」 ミニブッシュドノエル、ガトーショコラ、モンブラン、苺タルト、ミルフィーユ。ケーキ屋で胸いっぱい吸い込んだ甘い香りを思い出し、ふたりとも顔がぽわんと緩んでしまう。落ち着き無くケーキの箱に視線をやる三樹は今にも涎が垂れそうだ。 「うふふ! ……やっちゃいますか?」 「……少しくらい、お先に味見しても、罰は当たりませんよね?」 たくさん買ったし、大丈夫。 何個買ったか言わなければ、大丈夫大丈夫。 気がつけば近くのカフェで買ったコーヒーが手元にスタンバイしており、最早つまみ食いの準備は万端だ。
「きゃー! やっぱり可愛いですわね!」 「本当ですね……!」 手近なベンチに腰を下ろし、そっとラッピングを剥がす。宝箱でも開けるようにうやうやしく紙箱を開けると、果物や生クリーム、ショコラの官能的ともいえる香りがふたりの鼻を刺激した。 「ここは団長として、味見を許可します!! ……でも、他の皆さんには内緒ですわよ?」 「勿論です」 お互い秘密を共有するように、それぞれ好きなケーキをひとつ取り出して。 「三樹さん、あーん」 「あっ、は、はい……。……美味しい」 歌戀が三樹に食べさせて、三樹もならって歌戀に食べさせる。これでふたりは立派な共犯者だ。ああ、こっそり食べる甘いものとは何故こうも美味しいのだろう……? 「ん〜! このガトーショコラ、生チョコがとろけますわ! 半分こしませんこと?」 「……あ、それも美味しそうですね」 もうひとつだけ、もうひとつだけ。 もうちょっとならいいかな? 人数分残っていれば……大丈夫。 心の中で苦しい言い訳をする回数に比例して、ケーキは減ってゆく。気がつけば箱の中はかなりスカスカになっていた。 「ふたりだけの秘密、ですわよ」 「はいっ」 ……乙女の秘密というものは、得てして露呈しやすいものである。 それはさておき、メリークリスマス。
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