真月・マサト & 神門・或魅

●『とある義姉弟のクリスマス』

「ちょっと、早く来すぎちゃったかな?」
 夕暮れ時の公園で、小学生らしい男の子が一人ベンチに座っていた。
 少年――マサトの下宿でクリスマスパーティを開く事になったので、姉のように慕っている『或魅おねえちゃん』も招待したのだ。
 待ち合わせは本日、クリスマス・イブの夕方に近くの公園で。
 大好きな『おねえちゃん』に会いたいばかりに急いでやってきたのだったが、冬の真っ只中に一人じっと待っているのは正直寒い。
「あ……」
 ひときわ強い寒風を浴びせられて小さく縮こまったマサトは、その風の中に白い綿のようなものが混じっている事に気付く。
「雪だ」
 ホワイトクリスマスといえば、本当なら喜ぶべきことなのだろうが……。
 降り出した雪はさほど強くはないものの、止む気配もなくしんしんと降り続けている。
(「……傘とか、持ってくればよかったかな」)
「――おっ待たせ♪」
 マサトが心配げに空を見上げた瞬間、公園の入り口から元気な声が向かってくる。
 サングラスをかけてトレードマークである白いマフラーを巻いた少女――待ち人である『或魅おねえちゃん』だ。
「あーっ、疲れた。……ゴメンね、待たせちゃったかな?」
「う、うぅん、ぼ、僕も今来たところですからっ」
 ここまでずっと走ってきてくれたのだろう、息を切らせてベンチに座り込む或魅に気遣い、ついついそんなことを言ってしまう。
「ん〜〜?」
「わっ?」
「ほーら、温ったかいよ? せっかくこーんなに長いんだから、有効利用しないとねー?」
 マサトの返事を聞いた或魅は少年の体を上から眺め、少し寒そうにしているのを見て取り、自分の首に巻いていたマフラーを解いてマサトの首にもかけてやる。
 さらにはマサトの肩に手を回してよりかかかり、自分の頬を少年の頬へとくっつける。
「わっ、わわっ!?」
「マサトのほっぺた冷たいぞー? 冷たいほっぺは体に悪いんだぞ〜♪」
 無邪気に笑う或魅だが、マサトの方は『綺麗で大好きなおねえちゃん』に密着されて、一瞬にしてのぼせてしまう。
「あ、あうぅ……」
「ほらほらー、あったかいぞ〜?」
「お、おねえちゃん、もう、もう大丈夫です! 温まりましたからっ! 皆待ってるし、い、いきましょう?」
 顔を真っ赤に染めたまま暫く固まっていたマサトだが、ようやく我に返ると慌て切った声でまくし立てる。
「よーし、それじゃ、出発進行〜♪」
 促された或魅は勢いよくベンチから起き上がると、少年の手を引いて元気一杯に歩き出す。
 大好きな『おねえちゃん』と手を繋いで下宿へと向かう。
 舞い上がるような心持ちで歩くマサトの体には、先程までの冷たさはどこにもない。
 一人だと憂鬱な暗い夜道も、吹きつける雪まじりの冷たい風も、大好きな人と繋いだ手の温もりには敵わないのだった。



イラストレーター名:兎原エリノ