●『黄昏の中、貴女と』
空が黄昏色に染まる時刻。 夕焼けよりは暗く、夜と呼ぶにはほのかに明るい。 そんな狭間の時間帯に、無数のキャンドルに明かりが灯された。 ゆらゆらと揺れるオレンジ色の光が照らし出すのは、華やかに装飾されたツリーと、手を取り優雅に踊るカップル達。 ほのかな光に溢れたダンスパーティ会場は、光と影に彩られた幻想的な空間へと変わっていた。 銀誓館で開かれたクリスマスイベント。その中のひとつである、黄昏のダンスパーティ。 たくさんの人が愛する人と共に過ごす中、アキも同様に思いを寄せる恋人と共にパーティに参加していた。
「えーっと……リヴァル姉さん。一曲、お相手お願いします」 そう言いながら、アキは恋人に手を差し伸べた。 こういう事には慣れていないのか、はたまた緊張しているせいか、誘う仕草がややぎこちない。そんな様子に、リヴァルはにこりと微笑んで、差し伸べられた手に自身の手を重ねた。 「任せて大丈夫かしら? それとも、リードした方がいい?」 冗談めかして、そんな事を口にする。 けれども、その瞳は微かに揺れ動いていて……。 そんなリヴァルの手を引いて、アキはゆっくりと一歩目を踏み出す。 「リードしますよ」 ――男の子ですから。リードの一つや二つ、出来なくてどうします。そう心の内にささやいて、リヴァルの微笑みに応えるように、アキも微笑を浮かべてその瞳を見つめ返した。 そんな2人を、優しく淡い光が包み込んでいた。
演奏に合わせ、ワルツを踊る2人。 手を取り合い、瞳を交し合うその距離は、吐息がかかるほどの近さ。 押しつけられたリヴァルの身体の柔らかさに、思わずどきりとした表情を浮かべるアキと。 痩身ながらも鍛えられたアキの肉体に、男の子だなと驚きを隠せずにいるリヴァルと。 お互いに緊張しながらも、離れること無く踊り続ける。 ダンスはまだ始まったばかり。 二人のクリスマスは、まだまだ始まったばかり。 「また、来年も踊りましょうね」 「ええ、是非」
そんな二人のクリスマス。
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