●『聖なる夜の白き祝福』
街の喧噪からは少し離れた並木道を、美宇とラーダの二人が歩いていた。 「美宇、寒くはないか?」 「ん、大丈夫ですよ」 ラーダが問うと、美宇は微笑んでそう答えた。 だが、微笑みを作っているその唇からは、白いと息が漏れている。 今は冬だ。しっかりと握り合った手が、お互いの温もりを分かり合っていても、身体は真冬の空気の中にあるのだから、寒くないはずがなかった。 「これを」 短く告げると、ラーダは首に巻いていた赤いロングマフラーを少し解いて、美宇の首に巻いた。マフラーにはラーダの体温が残っていて、美宇がその温もりに思わず頬ずりする。 「ありがとうございます」 巻かれた瞬間には少し驚いた美宇だったが、それはすぐに喜びと嬉しさに変わって、彼女はラーダの方に身を寄せた。 寒さが消えたわけではない。けれど、寒さが気にならないほどには温かくなったのも確かで、美宇はニコニコと笑ってラーダの隣を歩いていた。 「温かいな」 「はい、温かいですね」 そう言って、二人が歩いていると、ラーダの目の前をヒラリと舞う、白い粒子。 「おや」 ラーダが足を止めて、空を見上げた。 美宇もつられて視線を上げると、風に乗って空を流れていくひとひらの雪が見えた。 「雪、ですね」 ヒラヒラを舞い落ちる雪は、少しずつその数を増やしていく。 美宇が、雪を受け止めようと手の平を広げた。だが、雪はなかなかそこに落ちてこない。すぐそばまで来ても、風で流されてしまうのだ。 「何をしているんだ、美宇」 雪を受け止めようとしている彼女の様子がおかしくて、ラーダがクスクスと笑った。 「ラーダさん、なにが可笑しいのですか?」 雪を受け止めるのをやめて、美宇が首を傾げていた。その身体を、ラーダがフワリと優しく抱きしめる。 「え……?」 呆気に取られたのはほんの一瞬。ラーダがマフラーを巻いてくれた時と同じように、美宇はすぐにその顔を喜びに染めて抱きしめ返した。 お互いに感じ合う、大切な人の温もり。 純白に彩られた幻想の風景の中、時間はゆっくりと過ぎていく。その時間を、美宇とラーダはお互いを感じ合うことだけに費やした。 「温かいな」 「はい、温かいです」 口元が、ついつい、綻んでしまう。 この人とずっと一緒にいたいと思う。ずっと、ずっと。 お互いの存在を確かめ合える幸せを噛みしめながら、二人は同時に思うのだった。 聖なる夜が更けていく。 それは、街から少し離れた場所での、幸せの一場面であった。
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