●『adventum』
久しぶりに帰ってきた森の中にある故郷の家。暖炉では赤々とした炎がぱちぱちと音を立て、部屋の中央に飾られた大きなもみの木には色とりどりのオーナメントが飾られている。 窓の外に広がるのは一面の雪。部屋の中の暖かさと相反する冷たく美しい銀の世界。 今日はクリスマス。オリガは窓の外に舞う雪を眺めて小さく息を吐いた。 「はふぅ」 オリガはサンタクロースを待っている。夜もだんだん更けてきた。そろそろ来てくれるはずなのにと、サンタクロースを待ちぼうけ。 でも退屈はしない。小さなテーブルにホットミルクのマグカップを置いて。揺り椅子に座ってお気に入りの絵本を読んだり、メルと互いに贈りあったプレゼントを何度も眺めたり。そんなことをしながら生まれ育った家でゆるやかに過ぎてゆく、それは心地良い時間。 (「ここでこうするのも久しぶりなのです」) ゆらゆらと揺り椅子を揺らしながら考える。思えばケットシーのメルと出会い学園へ入り……たくさんの出会いと思い出を作る事が出来た。一人だったら寂しくてすぐに家に帰ってしまったかもしれない。今まで銀誓館で過ごせたのはメルが一緒に居てくれたから。オリガの相棒にして大切な友達であるメルがずっとそばに居てくれたから。 少し視線をあげるとメルが居る。出窓に座ってオリガが贈ったマフラーを巻いて外を眺めている姿が可愛らしくて、思わずくすりと笑うとそれに気づいたメルは照れくさいのかふいっと視線を逸らした。 (「大好きなメル」) クールを装っていて、でも暖かくて優しくて、頼りになるとてもとても大切な存在。 無性にメルを抱きしめたくなって、オリガは揺り椅子から立ち上がった。途端、カラカラとした小さな音が響いた。オリガの首元で柔らかな音を響かせるこれは、メルが一生懸命集めた木の実で作った首飾り。大小さまざまなどんぐりに、小枝を削って作った葉っぱのペンダント。 そっとそれに触れて、 「ありがとうですよ、メル」 そう呟けば、メルはわかっているとでも言いたげにこくりと小さく頷いて。自分の首に巻いたマフラーを触りながら、オリガの頭をポンポンと優しく撫でた。 「これからも、よろしくですよ」 うれしくて手を伸ばせば温かな手がきゅっとオリガの手を握り返す。メルのふさふさの手は柔らかくて、なんだかとても幸せな気分になる。
「サンタさん、来ないですね……」 窓の外はまだ雪が降っているように見える。夜もずいぶん更けて、もう外は真っ暗で微かにしか見えない。 待ちくたびれたオリガが眠い目をこすりながらぽふっとベッドに倒れこむと、メルがそっとブランケットをかけてくれた。半分眠りに吸い込まれながらもオリガがブランケットの端をまくると、メルが隣りに潜りこむ気配がして。 ……明日の朝、もみの木に吊るした靴下には何が入っているだろう。 そんな事を考えながら、二人は柔らかな夢の中へ落ちていった。
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