●『親愛なる 亮くんへ』
亮君、亮君。 もし……もしもだよ? クリスマスにふたりで、どこへでも行けるとしたら、どこがいいと思う? この間テレビで見たイルミネーションがいいかな? あの雑誌に載っていたレストランがいいかな? あっ、あの特集で見たイベントも楽しそうだったね。 全部、いつか一緒に行こうってキミが言ってくれた場所だよ。そういう場所はたくさんあって、もう数えきれないくらいだね。 でも……ぼくはね。キミと手を繋いでクリスマスの街を一緒に歩けたら、もうそれだけで十分なんだ。だってぼくは、キミと一緒にいるだけで、本当に幸せなんだから。 ねえ、亮君。 たくさんの幸せをくれてありがとうって、そう言いたいのはキミだけじゃないんだよ。あの時、あの場所でキミと出会って……人生が変わったって言うなら、ぼくの方がもっともっと、そうなんだから。 ぼくはね、あの頃こんな風に自分が夢を願うだなんて、思いもしなかったんだ。 でも、今は違うよ。 毎日キミと一緒にいて、いろんな夢をふたりで描いて……それがすごく、楽しいんだ。 それが叶ったら、すっごく嬉しいんだ。 夢を見る事を教えてくれたのも、夢を叶える事を教えてくれたのも、全部全部キミなんだよ? ぼくの夢はね、キミがいるから叶うんだ。 ねえ、亮君。ちゃんとわかってる?
……ぼくのささやかな夢。きっと、亮君の夢でもあるよね。 ふたりで手を繋いで、いろんな場所を歩くこと。普通の恋人達ならいつもしている事なのに、ぼくらには、それができない。 ……このささやかな夢のために、キミはこの先、どれだけ涙をこらえるのかな……。 ごめんね、って言いたくなるけど言わないよ。だってキミは諦めたりしないでしょう? だから、ぼくも諦めないよ。叶わない夢なんて無いんだって、それを教えてくれたのは、キミだからね。 そうだ! ぼくは、もっと強くなるよ。夢を叶えるために、いっぱいいっぱい強くなるよ。もしキミが挫けそうになったら、いつでも支えてあげられるように、強い女になってみせるから。 だからね? ずっとずっと、一緒にいようね。 今はこうして、ふたりきりの場所でささやかに過ごす事しかできないけど、でも。 いつか、きっと。
……ぼくは、ずっとキミのそばにいるから。 亮君も、ずっとそばに、いてね。
「ん……」 ふと、亮は目を開けた。窓の外からは朝日が差し込んでくる。いつの間にか眠ってしまって、気付いたら朝になっていたらしい。 背中には、昨夜めいっぱい飾り付けたツリー。 それから……隣から伝わってくる、ぬくもりは。 「おはよう、シャズナ」 視線を向ければ、そこには、いつもと同じようにこちらを見つめてくるシャズナの姿があった。 亮は、幸せそうな笑みを浮かべる。寄り添いながら過ごした夜が明けた今、何よりも大切な彼女に伝えたい言葉を……そっと、大切な彼女を抱きしめながら、囁いた。
| |