●『帰り道』
その日、風は冷たくて。 学園主催の仮面舞踏会も終わり、会場に集まった多くの生徒達はそれぞれ思い思いに散っていく。 戒一郎と霧芽もまた、その中に混じって二人で帰路に就いていた。 そのさなか、戒一郎と霧芽が、噴水のある公園を歩いていた時のこと――。 「戒一郎様は、いつもの骸骨仮面でしたね」 霧芽が微笑みながら言う。 二人の会話は、ついさっきまで続いていた仮面舞踏会の話題だった。 「霧芽さんの、そのプロレスの覆面、とっても分かりやすくて助かりました」 他の参加者達がパピヨンマスクなどをしている中、霧芽の被っていたプロレスマスクは、確かに何よりも際だって分かりやすかった。 だがそれは、戒一郎の骸骨仮面もまた同じコト。 霧芽がソレを告げると、戒一郎はちょっと困ったように笑うのだった。 そして、会話が止まる。 二人は互いに口を噤んで、公園の中を歩いていた。 辺りには風の音と、噴水の音。 月と星は鮮やかで、夜ではあるがさほど暗くもなく。 「…………」 「…………」 二人は、無言で歩き続ける。 一歩先を行く戒一郎が、肩越しに振り返って霧芽の方を見た。 霧芽は、少しだけ顔を俯かせて歩いていた。 その様を見て、戒一郎は胸中で小さくため息を零した。情けない自分に対して。 そして彼は勇気を振り絞って後方に右手を差し出し、霧芽の手を握ろうとする。 だが、後ろを見ずにそんなことをするものだから、伸ばした手は霧芽の手を握れず、右へ左へ、行ったり来たり。 「……もぅ」 霧芽はクスっと笑って、右手を差し出して戒一郎の手を取った。 手と手が握られた瞬間、戒一郎の方が一度だけピクンと震える。 ――顔が熱いな。 真っ赤になった顔を霧芽に向けることも出来ないまま、彼は手を繋いで歩いた。 一方で、霧芽も頬を紅潮させている自分を自覚して、恥ずかしさからまた俯く。 それでも、瞳だけでチラリと戒一郎の背中を見て――。 「来年……」 彼女は口を開いた。 「来年も、二人で迎えられると、いいですね」 言うと、答えは少し間を置いてから返ってきた。 「再来年も、その先もずっと、二人で迎えたいです」 「……ええ、そうですね」 その日、風は冷たくて。 けれど、月の下、歩く二人の心は暖かいものに満たされていた。
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