遠坂・焔 & 天雅・雛愛

●『愛に向かって大爆走!三輪車で。』

 クリスマスプレゼントの交換会で、とても大きなプレゼントを引き当てました。
 中身を確かめると、黄色の三輪車でした。
 でも、ひにゃはもう小学五年生なので乗る事ができません……。
 そうだ、ライバルに譲ってあげましょう!

 焔は立ちすくみ困惑していた。
 一度止んだはずの雪は再び降り始め、夕暮れと降雪のハーモニーという美しさを見せてくれていた。
 その幻想的な光景に包まれ、足元には三輪車。このうえなくシュールだ。
「というわけでライバル、乗ってください」
 雛愛は両手を腰にあて、満面の笑みを浮かべた。
「いや、俺原付持ってるしいいわ!」
 手を振って、やんわりと断る焔。
「頑張ると、三輪車も原付と同じ速さになるのですよ」
「いや、その理屈は無理があるぞ!」
 三輪車をぐいぐいと焔の方へ押し付ける。
「とりあえず乗って判断するといいのです」
「よし、乗った!」
 売り言葉に買い言葉。焔はひらりと三輪車に飛び乗った。
 しかしさすがは三輪車、どう工夫をしてみても十七歳の焔の体には窮屈だ。
 足をペダルに掛けるだけで一苦労だが、三輪車の挑戦を焔は受けて立つしかない! 漢ならば!
 きこきこきこ──。三輪車を軋ませながら、焔は一所懸命こぎ続ける。
「おーい、コレいくら頑張っても原付には及ばねえぞ!」
「気合いが足りないのです、全力を出せば『きっと』原付に辿り着く事ができるんです!」
「そうか、それじゃあもっと気合いを入れないとな!」
「そうです、頑張りましょう! 頑張った先には愛があるのです!」
「愛があるのか!」
「はい、だから……」
 雛愛は夕日を指差し、焔は夕日を見つめて声を合わせた。
「「愛に向かって」」
「走るんだ!」
「走るのです!」
 雪は激しさを増し、吹雪はじめた。

 猛吹雪を三輪車の乗った男が爆走していく。
 その後ろを、ひょこひょこ付いて行きながら励ます少女。
 焔の頭に積もった雪が、じゅうじゅうと音を立て蒸発していく。
 二人はそんなイメージを抱くが、自然はそう甘くない。
 明日はきっと風邪だろう。
 ──そんなふたりのクリスマス。



イラストレーター名:由井とーる