夕城・涙雨 & アルノルト・チェルハ

●『祝福』

 星降る夜に、ヤドリギを探して――。

「ヤドリギとは古来より神聖な木であると言われています」
 その木を見てみたい……ふと、涙雨は呟いた。
「うん、元々見に行くつもりだったからね」
 呟きに対し、アルノルトは頷いた。
 最初から彼女と見に行くつもりだったが、それが彼女の希望でもあったのは喜ばしい事であったかもしれない。
 その証拠に、彼の中に温かい何かが芽生えていた……が、本人にはそれが何を意味するか理解できなかった。
 人ごみの中を歩きながら目的地を目指す二人。
 道中で取り留めの無い会話を交わしていた最中も、アルノルトは理解できない『何か』を感じ続けている。
(「一体、何なのだろうか……?」)
 会話の中で時々涙雨が浮かべる微笑。
 それと見た途端、胸の中に詰まっている『何か』が熱を持っていく。
 ……しかし、まだそれは理解できる形にならず。

 陽はすでに落ち、世界は星降る夜に彩られる。 
 星降る夜に輝くは一つの木――二人はようやく、ヤドリギの前に辿り着いた。
「貴方なら見つけて下さると思っていた……」
 森の加護を持つ彼ならきっとこの木を見つけてくれる。
 信じていた通り……涙雨は抑えきれない喜びを表現するかのように笑顔を浮かべた。
(「…………!?」)
 視線を合わせ、その笑顔を見た瞬間。
 アルノルトは自分が抱いていた『何か』の正体にようやく気付いた。
 ――それは、当然のように抱いていた感情。
「……涙雨」
 今まで何度も呼び続けたその名前。だが、その響きはいつもとは違う。
(「僕は……涙雨に傍にいて欲しい。この先もずっと……」)
 もう誰にも求める事など無いと思っていた感情。
 溢れる想いを彼女に告げようとして……しかしそれは、彼女の手の温もりに遮られた。
 繋がれた両の手。胸の前にあるその手を見つめながら涙雨は呟く。
「お側におります。ずっと、ずっと……」
 決してこの手を離さない。大切な人に寂しい思いなどさせない。
 それを伝えるかのように、涙雨はしっかりと彼の手を握っていた。
 両手を握られ一瞬驚いたが、その温もりにアルノルトは安心した子供の様な表情を浮かべる。
 アルノルトが彼女に抱いた感情。その正体は――。

「――君が好きだ」
 彼の口から紡がれしは『愛』の告白。
 ヤドリギの下で今、一つの愛が誕生した……。



イラストレーター名:アキ