水守・梢 & 沢渡・尊

●『ふたりのクリスマス 〜“Non balla?”』

 艶やかな木製の大きな扉がゆっくりと開かれる。
 巨大なシャンデリアのきらめく光が、ダンスホールを照らし出す。
 曲の合間なのか、ひとときのおしゃべりを楽しむ人々は、新たな参加者に目を向けた。
 赤、白、黒、その他にも色とりどりの仮面が入り口に振り返る。
 今夜のパーティは仮面舞踏会。
 日常から離れて、異世界に迷い込んだような錯覚を尊は覚えた。
 だが、その感覚も一瞬だけで尊は、身に付けた白い仮面の感触を確かめながら会場を歩く。
 1人で歩いている彼に次々とかけられる、誘いの言葉を軽く受け流し、ただ一人の目当ての人物を捜す。
 仮面舞踏会の会場では、彼と同じように、相手を探している人がすでに居た。
 2人がすれ違った僅かな時間に、黒い仮面の少女が尊の背中に声をかけた。
「あらボク、こどもは寝る時間よ」
 確信に満ちた少女の声に、むっとした顔で尊が足を止めて振り返る。
「子供じゃっ……?」
 何かを言い返そうとして、動きを止めた彼の前で梢は優雅に一礼して、手を差し出すと尊へ冗談めかして笑う。
「可愛い王子様。良かったら一曲、踊ってくれない?」
 言いかけた名前を飲み込んで、尊は差し出された手を取り。
 それに合わせたように、会場にオーケストラの演奏が流れ出す。
 クリスマスの夜をはなやかに飾る調べに乗って、仮面のダンスが始まる。
 2人も手を握り、身体を抱き合って踊りだした。
 こんなにも近い距離にいるのに、表情は見慣れない仮面に遮られ互いに知ることは出来ない。
 それでも彼らは、この一瞬を存分に楽しむ。
 すぐに1曲が終わり、次の曲へと移る合間に尊が梢の手を引いて身体を引き寄せる。
「Non balla?」
 抱き寄せられて、そして囁かれた言葉に梢が顔を赤らめた。
 じっと尊の目を見つめ、梢が背中に回した手に力を込める。
 このまま、ずっといたい。自分だけを見て欲しい。
 くるくると、踊りながら2人はじっと見つめあう。
 どうか、この時よ終わらないでと願いながら。



イラストレーター名:らうん