亜栗・光奈 & 城・涙緋

●『 * Snow Smiles * 』

 楽しい時間が過ぎるのはとても早い。夜になって銀誓館のクリスマスパーティーも終わり、ざわめきの中皆が思い思いに帰途につく。光奈と涙緋も学園を後にして、二人寄り添うようにしてイルミネーションのきらめく繁華街を歩いていた。空からはひらひらと粉雪が舞い落ちてくる。
「クリスマスパーティー楽しかったね」
「はい、すっごく楽しかったのです♪」
 涙緋の言葉に光奈は満面の笑みを浮かべつつ、やや興奮気味に大きく頷いた。それだけ楽しかったのだ。きっと今まで過ごしたクリスマスの中で一番思い出に残るクリスマスになるだろう。
 さまざまな装飾をほどこされていつもと違う雰囲気の銀誓館を二人で巡ったり、大きなヤドリギの下で長い間おしゃべりしたり。それから……不意に訪れた初めてのキスの瞬間。そしてふとしたきっかけから、光奈、るぅくん、と呼び合うようになった二人。二人はお互いの間にあった見えない薄い壁が消えたのを感じた。
「うぅ……それにしても寒いのです……」
 気付けば周囲には誰も人が居ない。
(「きっと寒いから、皆お店に入っちゃってるのです?」)
 歩道に積もった雪が歩くたびにキュッキュ、シャクシャクといった音を奏でる。昨日の夜の天気予報で今日は雪かもしれないと言っていた。だから、寒がりの光奈はちゃんと温かい格好をしてきたつもりだったのだけれど。
「寒すぎなのです……」
「大丈夫、光奈……?」
 涙緋は心配そうに光奈の顔を覗き込み、そう気遣いながら不意にいつもしている橙色のマフラーをほどいた。
「……?」
 不思議そうに自分の挙動を見つめる光奈にニコッと微笑みかけて。涙緋は手に取ったマフラーを光奈と自分、二人の首に優しく巻きつけた。
「ふぇ、るぅくん……?」
 マフラーの長さは決して長くはない。一本のマフラーを二人で巻くことによって二人の距離はゼロになる。
「これで、寒くないでしょ? さ、行こうか、光奈」
 そう言って、突然の出来事に目を白黒させている光奈の肩を抱き、なかば引っ張るように歩き出す涙緋。首に巻かれた夕暮れ色のマフラーの暖かさと、ぴったりと寄り添い合って感じるお互いの体温。
「あたたかい……」
 うれしくてぽそりと呟く。自然と光奈の歩調はゆっくりとなり、涙緋は一瞬怪訝そうな顔をしたものの、幸せそうな光奈の表情を見て自分も微笑み、光奈に合わせてゆっくりと歩く。

 粉雪の舞うクリスマス。
 お互いが思う想いは同じ。
 楽しい時間が過ぎるのはとても早いけど。どうかもう少し……。
 この暖かさの中で、二人きりの素敵な時間が一秒でも長く続きますように。



イラストレーター名:すぐり