●『リベンジ』
遠くから陽気なクリスマスソングの調べが、アサミの部屋まで聞こえてくる。 窓の外はもうすっかり日が暮れて、1日雪を堪えていた曇り空も、すっかり暗くなっていた。 (「まずは……、さみ子の注意をそらさないとな」) 2人で過ごす初めてのクリスマスパーティ、しかし屈託なく笑うアサミの隣では一也が復讐を計画していた。 今日の作戦を心の中で確認しながら、一也は窓の方を眺め、昨日のことを思い出す。 不意を突かれたアサミからの突然のキス、クリスマスイブに受けた衝撃に、昨日は呆然としていた彼だったが、今日はリベンジに燃えていた。 2人並んで座ったテーブルには、料理がならべられて、ささやかながらも温かい空気が部屋を満たしている。 きっとアサミは、一也が何か企んでいるなんて思いもしないだろう。 やがて、デザートのケーキを食べ終わると、2人はイブでの学園のパーティや、食べ終えたケーキの味など、雑談に花を咲かせる。 そして話題がクリスマスのプレゼントに、2人で送りあったピンキーリングになった頃。 「雪、降るかな」 自然に、呟きながら一也がリングから視線を窓へと移すと、つられてアサミも窓へと振り向く、窓を向いた彼女へ一也が声をかけた。 「アサミ」 普段と違う呼び方に、アサミが驚いた顔で振り返る。 そしてアサミへ、すれ違うような一瞬のキスが贈られた。 自分でした事ながら、気恥ずかしさからすぐに一也は彼女から離れる。 突然の出来事に、呆然としていたアサミも、状況が飲み込めてくると顔が一気に真っ赤に染まっていく。 お互いに赤い顔で向かい合いながら、一也が小さな声で彼女にたずねた。 「……リベンジ、成功?」 彼の言葉に、赤い顔のままアサミが答える。 「……大成功」 囁くような言葉と一緒に小さく頷くアサミ、彼女から見えない位置では、一也が拳を握って小さくガッツポーズだ。 そうして、見つめ合う間にどちらからとも無く、2人は微笑みに表情を変え、テーブルの下でお互いの手を握りあう。 一也がアサミの肩を抱いて、ゆっくりと2人の距離が縮む、そして今度こそ2人は不意打ちでないキスを交わす。 温かな部屋でも、2人で感じる温もりはそれ以上に体と心を温めていく。 こうして、聖なる夜のささやかな復讐劇は大団円で幕を下ろしたのだった。
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