●『雪降る丘の上で』
白く彩られた銀世界に黒乃と月子の二人分の足跡が続いていく。 二人はサクサクと軽い足音と共に、他愛ない会話をしていた。言葉を交わす度に、それぞれの口元から白い吐息が広がる。 冷たく澄んだ空を見上げつつ歩いていた黒乃がピタリと足を止めた。 何事かと思う月子をよそに、黒乃が唐突にその場に仰向けに寝転がる。月子はそんな黒乃を見て僅かに目を丸くした。 「いきなりどうしたの? 風邪でもひきたいの?」 月子の問いかける一言に、黒乃は空を見上げながら「いや」と口を開く。 「凄く星が綺麗でさ。月子もどうだ?」 黒乃の返答に月子は空を見上げた。 一つため息をつきながら、月子はやや呆れつつも黒乃と一緒に寝転がる。 遠く輝く星が、囁くように瞬いた。 「ふふ……」 しばらくの沈黙を破ったのは、月子の微かな笑い声だった。 「……どうした?」 黒乃はそんな月子に対して問いかける。 しばらく忍ぶように笑っていた月子だったが、やがて口を開いた。 「こんな風に黒乃と星を見るとは思ってもみなかったわ」 月子の小さな声に黒乃は空を見上げたまま「そうか……」と応じる。 どれほど二人はそうしていたのか。 空に薄く雲がかかってきた。 数度瞬く間に、天上からはらはらと白いモノが舞い降りてくる。 「あ、雪……」 月子は呟いて身を起こした。黒乃も「ああ……」と頷く。 静かに降る雪を、二人は見ていた。
暫くそうしていると、黒乃はおもむろに身を起こす。 「月子、手出して」 「何?」 月子は身を起こした黒乃へと視線を向けた。視線の先には、懐から何かを取り出す黒乃が映る。 黒乃が取り出した『何か』は――小さく輝く指輪だった。 黒乃は月子の手を取ると、そっと指にはめる。 「メリークリスマス、月子」 指にはめられた指輪に月子は瞬いた。……雪明りの中輝く、小さな光。 「……メリークリスマス、黒乃。そして、ハッピーバースデー」 言いながら月子の瞳に柔らかな光が宿る。月子の表情に黒乃もまた、表情を和らげた。
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