●『最高のあま〜いひとくち♪』
淡い青を基調とした壁紙の、麗那らしい雰囲気の漂うシンプルな部屋。テーブルの上にはクラシカルなランプが置かれ、柔らかな光が暖かく辺りを照らしている。その光に浮かぶのは麗那の手作りのクリスマスケーキや料理、そして二つのティーカップ。麗那はレモンティーで未玲はミルクティー。 「わぁすごい! すごくおいしそうだよ!」 麗那が用意したそれらを見て未玲は目を輝かせて感嘆の声を上げた。 「未玲ちゃんに喜んでもらおうと思ってがんばったのよ。喜んでくれてうれしいわ」 椅子に腰をおろして、ふわんと湯気を立てるティーカップを両手で包みこむようにしてふぅふぅと息を吹きかける未玲を見て、麗那は私は幸せですわと心の中で呟いた。 (「今年も最愛の人と一緒にクリスマスのお祝いを。そして、きっと来年も……」) ささやかだけど、至上の幸せ。
「麗那先輩、ボク早くそのケーキが食べたいな♪」 「じゃあ、もう切っちゃいましょうか」 無邪気な未玲のおねだりに、麗那はにこやかに応じて手際良くケーキにナイフを入れ皿に取り分けた。けれどもその皿の片方を未玲に渡そうとはせず、さくりとフォークを突き立てる。 「?」 不思議そうに自分を見つめる未玲に麗那はにっこりと笑って、 「はい、あーん」 そう言ってフォークを未玲の口元に差し出した。 「えっ、ええーっ」 「いや?」 慌てる未玲を見て麗那は少しさみしそうな顔になった。未玲は更に慌てて首を左右に振る。 「い、いやじゃないよ! ちょっと……」 恥ずかしかっただけ。 もごもごと口の中で呟き、意を決して口を開ける。 「あ、あーん」 (「うぁぁ、恥ずかしい! 逆はやってたけど、いざ食べさせてもらう側になると……」) そう思ってかぁーっと赤くなりながらも、実はそれ以上のうれしさと甘酸っぱさで頬をゆるませながらそれに応じる未玲。 麗那の作ったケーキはとても美味しく、とろけるように甘い。……もしかしたらこの甘さはケーキのものだけではなくて。そう、きっと麗那が作ったケーキだから。そして麗那に食べさせてもらっているから……。 (「ボクってなんて幸せなんだろう」) 未玲も感じる。麗那が感じたのと同じ、ささやかでいて至上の幸福を。
「麗那先輩、お返しだよ」 照れ隠しというわけではないけれど。未玲も同じようにケーキをすくって麗那に差し出す。 「うふふ」 「ふふ」 お互いに食べさせあい、自然と笑顔がこぼれる。 「来年もこうして一緒に過ごせたらいいわね」 「うん、ずっと一緒だよ♪」 来年も、ここで。 そんな約束を交わし……。 「未玲ちゃん、愛してるわ」 「うん、ボクも麗那先輩のこと、愛してるよ♪」 ふわりとほほ笑んだ麗那に向かって未玲もにっこりと笑う。そのまましばらく見つめあって。どちらからともなく指を絡ませ、そして唇を重ねる。キスの味は甘く甘く。二人は今日何度も感じた幸せをもう一度かみしめた。
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