●『聖なる夜に思いを馳せて』
ショッピングモールは買い物客で大賑わい。陽気なクリスマスソングがその賑わいをいっそう盛り上げているのは間違いない。エイゼンと燈子もウキウキしながら買い物をしていた。 「チキンも買ったし、ケーキも買ったし、買い忘れたものないよね?」 「もう……ないんじゃないか? メモしたものは全部買ったはずだぜ」 燈子がケーキの箱を手に声を弾ませると、隣から沢山の荷物に埋もれたエイゼンのくぐもった声が答えた。 「大丈夫? ちょっと買い過ぎちゃったかな?」 燈子が心配そうに見上げると、両手いっぱいに抱えた荷物の山の隙間からエイゼンの困ったような笑顔がちらちら見え隠れしていた。 「大丈夫大丈夫、これくらい朝飯前だぜ。あ、もう夕飯前か」 エイゼンが笑い飛ばすのを聞いて安心した燈子は、急にもじもじしはじめて、上目遣いで言いにくそうに切り出した。 「だったら……今ね、あそこでね、雪だるまのぬいぐるみと目が合っちゃったの。きっと、六華にあげたら喜ぶと思うんだけど……」 目をウルウル潤ませる燈子に反対出来るはずがない。笑顔で頷いた結果、さらに荷物が追加されたエイゼンは、亀のようにのろのろ進むことになった。 「ケーキ♪ ケーキ♪」 歌うように連呼する声が聞こえてきたのは、それから間もなくのことだった。エイゼンが声のする方を振り向いた時には、亀を追い抜く兎のごとく、幼い兄妹が二人の間を駆け抜けていった。 「おっとっと」 エイゼンが荷物を落としそうになりながらも華麗に身をひるがえすと、燈子は一瞬の出来事に目をパチクリさせていた。 「ふいー……危なかったぜ」 安堵の息を吐くとエイゼンは、兄妹の後ろ姿をじっと眺めている燈子を見た。 「どうした?」 「みんな楽しそうだね。やっぱりクリスマスって特別なんだなー……私たちも楽しいクリスマスにしようね」 燈子がエイゼンを見上げてにっこり笑うとスキップしだした。両手で抱えたケーキの箱がゆさゆさ揺れる。 「もちろんだぜって、おーいタンマ! ケーキが崩れるって!」 前が見えないエイゼンが四苦八苦しながら追いかけていくと、燈子は広場で立ち止まっていた。そこには大きなクリスマスツリーがそびえ立っていた。 「すげえ……」 燈子に並んだエイゼンが感嘆の声を漏らす。二人は寄り添うように立って、ツリーを見上げた。その隣では先程の兄妹も手を繋いだまま、口をぽかんと開けてツリーを見上げている。燈子は羨ましそうにその姿を眺めると、エイゼンの身体にぴったりと自分の身体をくっつけた。 「来年もその次もずっと一緒にツリーを見ようね」 「ああ、もちろんだぜ」 二人は顔を見合わせて笑うとツリーをもう一度見上げた。 「来年はおっきいツリーが欲しいね」 「はははは、そうだな……」 (「その時はさすがに配送を頼んで欲しいな」) あまりにも無邪気に言う燈子に、引きつる頬を誤摩化しながら、心の中で祈って笑うエイゼンだった。
| |