●『二人、初めての……』
クリスマス・イブ。街角にツリーが飾られ、イルミネーションが輝く夜。 大きなツリーの下で待ち合わせて、これから出かけようとする二人の姿があった。
思い切って、かなたを誘ったのは太郎だ。クリスマスプレゼントの代わりに食事でも一緒にどうかと、駄目で元々のアタックだったが。意外にも、かなたは誘いをあっさり受けてくれた。 明かりの下で彼女を見れば、いつもと違う装いに気付いて。 「ん、その服見るの初めてだ。良く似合ってますよ」 太郎が微笑みかける先で、かなたが小さく下を向く。 「あ、ありがとうございます」 かなたにとって、太郎からの初めての誘い。いつもより少しだけお洒落に、と思い頑張った努力は、太郎の一言で報われたようだった。 団員二人の結社の、団員と団長。毎日のように顔を合わせてはいるけれど、改めて二人きりで食事となると、少し意識してしまって。 (「なんでしょう、ちょっとどきどきしますね」) 彼は自分をどう思っているのだろう。こうやって誘ってくれたのだから、少なくとも嫌われてはいないと思うけれど。もっとも、かなたの方も太郎に対する思いを言葉にはできないのだが。今は、まだ。 「――やっぱり、この時間になると冷えますね」 太郎に言葉をかけられ、かなたは慌てて彼を見る。 「団長がくれたマフラー、早速使わせてもらったよ」 笑う太郎の首元には、かなたがクリスマスプレゼントとして贈った手編みのマフラー。よく見ると、いくつか編み目が飛んでいたりするけれど。それでも、自分の編んだマフラーを使ってもらえるのは嬉しい。 「あ、団長は大丈夫?」 「うん、私は大丈夫ですよ」 太郎の気遣いに、かなたが頷く。マフラーはなくても、その気持ちが温かいから。 かなたの返答に安心した後、太郎はそっと彼女へ手を差し出した。 「じゃ、そろそろいきましょっか」 かなたも笑って、彼の手に自分の手を重ねる。 「ふふ、今日は楽しみです」 これから向かう店がどこなのかは、かなたには内緒にしてある。着いてからのお楽しみだ。自分としては随分と気合を入れて探した店だが、彼女が気に入ってくれると良いと、太郎は心から思う。 友達からは、もっと気張って行けと言われたりもしたけれど。でも、今更カッコつける仲でもないのも事実だ。――だから、普段どおりで。そう、彼は決めていた。
手を繋いで歩き出した二人の後姿を、街のイルミネーションが照らす。 初めてのお出かけは、これから――。
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