真木・真朱 & 火倶耶・イルマ

●『starlight Christmas 』

 いつもの神社をちょっと改装。
 今日だけなら、きっと、神様も許してくれるだろう。

 かちゃかちゃとボウルの中のクリームをあわ立てる音が、キッチンに響く。
「クリームはこれでよしっと。次は……」
 本を見ながら、真朱が作るのは、クリスマス用のチョコレートケーキ。
 今日は、彼女と一緒に素敵なクリスマスを楽しむのだ。
 そのために、ケーキは欠かせない。
 ふと、時計を見る。
「まだ大丈夫」
 うんと頷いて、真朱は美味しいケーキ作りに励んだ。

 全ての準備が整った頃。
 来客を告げる音が建物の中に響いた。
 真朱はすぐさま、玄関に向かい、彼女を迎える。
「いらっしゃい、イルマ」
「今日は、招いてくれてありがとうございます」
 ぺこりと愛らしい赤いドレスを身にまとったイルマが、頭を下げる。
「さあ、入って」
 真朱の言葉に促されて、イルマは奥の部屋へ。
 するとそこは、いつもと違う雰囲気をかもし出す、素敵な場所だった。
 和室な部屋が、今日は洋風に、クリスマスっぽく飾られてあって。
 さすがに席はちゃぶ台に座布団だったけれども、ちゃぶ台の上には、赤いテーブルマットが敷かれ、座布団もクリスマスっぽいアップリケのついた緑のカバーで覆われている。
「これは……真朱さんが?」
 イルマの言葉に真朱は、微笑みながら静かに頷いた。
 と、思い出したように、真朱は顔をあげて。
「あ、そうだ。お腹空いたでしょう? いいものがあるの」
 ちょっと待っててと、真朱は奥の部屋へと席を外して数分。
「わあ……」
 真朱が持ってきたのは、大きなチョコレートクリスマスケーキ。
「さあ、食べましょう」
「はい」
 真朱がケーキを切り分け、イルマに差し出す。
 イルマは、戸惑うかのようにそのケーキの皿を受け取った。
 そして、もう一度、真朱の顔を見る。
「食べてみて。イルマのために作ったんだから」
 その言葉を聞いて、余計、緊張しているのか、時間をかけてひとかけらをフォークに刺した。
 美味しいのはわかっていた。
 けれど、一人で先に食べちゃっていいものか。
 そんな気持ちが、イルマにはあった。
「い、いただき……ます」
 恐縮しながら、そっと口元に寄せて、ぱくんと食べる。
「美味しい……」
 口から零れるのは、幸せな一言。
 こんな幸せを独り占めするには、もったいない。
「お、美味しいので、二人で食べましょう」
 頬を染めて、イルマは真朱に提案した。
 それに二人で食べた方が、もっと美味しいに違いない。
 だから、イルマがナイフを持って、ケーキを切って、真朱に渡した。
「一緒に食べた方が、美味しいですし」
「じゃあ、いただきましょうか」
 真朱も嬉しそうに微笑んで、イルマから渡されたケーキを受け取った。

 二人だけのささやかな時間。
 おっきなケーキは、一欠けらも残さず綺麗に食べきった。その分、夕食は食べられなかったけれど。
 幸せな時間が過ぎ行く窓の外で、白い雪がゆっくりと降り始めていた。



イラストレーター名:かりん