●『Varlenhills』
パーティーの準備で買い込んだ帰り道。聖夜限定の飾り付けに彩られた道を、ラピスとマロンが歩いていく。 「たまには、カエル人形より僕に目を向けてくれないかな?」 そんな事も言いたいけれど、敢えて抑えるのが何時もの話。距離が近すぎて伝えられない事は沢山、ある。 (「マロンは、今は友達との時間が凄く楽しそうだから当分はこのままでも……他の男の子が現れたら、正直困るけど。そこは内緒、内緒」) マロンの髪型や服装の趣向、そう言うのを知ってるからなるべく好みに添うように努力もしている。 恋する男の子には案外気苦労が多い。 (「ラピスと来ると荷物沢山持ってくれるから助かるよ。優しいし、普段も色々と良くしてくれるから頼りにはしてる。やっぱり持つべき物は幼馴染だよね。うーん、今年は何かあげた方が良いかな?後で買っておこうかな」) マロンの方はといえば、そんな風に考えていて、ラピスの恋心なんて全く気付いていない。距離が近すぎるのもいかがなものか、ということだろう。
白い薔薇は『無垢』。黒い薔薇は『独占』。正反対の、二色の薔薇の植え込み。その薔薇とマロンを交互に見てラピスは『君と僕みたいだ』と、漠然と思った。 本当なら絶対に交わらない色……遠い想いの。 その場で、ラピスはプレゼントを渡すことにした。なかなか言い出せない想いも、ここなら伝えられる……なんとなく、そんな気がしたから。 「少し早いけど」 「うわ!!」 あ、驚いた。 「さっき秘密で買っておいた物だよ。他の皆には、内緒にしてね?」 驚いた表情のまま、こくこくと頷くマロン。心なしか、その顔には赤みがさして見える。ただの幼馴染だと思っていても、このロマンティックな風景とマッチして、どこか恋人のように思えるため照れくさい。 (「な、何考えてるんだよ、僕は!?」) 「み、みんな待ってるよ! 早く行こう!」 ぶんぶんと頭を振って、精一杯の照れ隠しのつもりなのか足早に歩いていくマロン。それについていきながら、ラピスはひっそりと想った。 (「……雪で隠れる白薔薇みたいに、誰にも見えないように。僕だけの女の子でいて欲しい」)
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