マリア・エスペランザ & 赤護・侑

●『「こんな日だけですよ。」「うん、分かってる。」』

 街道沿いの木々に飾られたクリスマスイルミネーションが、静かに瞬いている。
 白い息を一つ吐き、マリアは時計台を見上げた。さすがに長時間立ち続けていると、降り続ける雪の冷たさが身に沁みてくる。
 待ち合わせ時間までは、もう少し。
 つま先を温めるようにとんとんと足を踏みならしていると、後ろの方から聞きなれた声が聞こえた。
「ごめん!」
 振り向くと、侑が走ってくる所だった。マリアの姿を見つけ、遠くの方から走ってきたのだろう。少し息が上がっている。
「待たせた? ごめん」
「待ってないわ。私も少し前に来たばかりだから、大丈夫」
「でも、雪が」
 侑はマリアの肩をそっと払った。髪や肩についた雪の量が、マリアの待ち時間を物語っていた。
「いいのよ。遅刻したわけじゃないんだし……私が勝手に待ってただけだから」
「寒かったでしょう? 本当にごめん」
「寒くなんかないってば」
「でも」
 その時、マリアは「くしゅん」と小さくくしゃみをした。侑は「ほらね」と笑う。
「風邪を引いてしまいますよ。そうだ、オレの上着を……」
「そんな」
 上着を脱ぎかけた侑を、マリアは慌てて止めた。
「上着なんか借りたら、侑が風邪を引いちゃうわ。お願いだから、それは侑が来てて」
「オレなら大丈夫です」
「そんなわけないでしょう。こんなに寒いのに」
 その言葉に、侑は手を止めた。
「寒いって認めましたね?」
 マリアは苦笑する。
「わかったわ。じゃ、上着の代わりに……私のことをぎゅっと抱きしめて」
 その提案に、侑は照れたような笑顔を浮かべた。
「……こんな日だけですよ」
 若干躊躇しながらも、侑はマリアの体を後ろからふわりと抱き、ぎゅっと力を込めた。優しく温かい抱擁。マリアは回された腕に頬を埋める。
 全身で侑の体温を感じながらふと振り向くと、侑の優しい笑顔が目の前にあった。間近からじっと見つめると、侑はくすぐったそうに目を細める。
「遅くなっちゃったけど、メリークリスマス、侑」
「メリークリスマス。待たせたお詫びは何がいいですか?」
「お詫びなんて……いいって言ってるのに、もう」
 言いながら、マリアの頭に閃くものがあった。いたずらっぽく笑い、侑の耳元に唇を寄せる。
「じゃ、一つだけわがままを聞いてくれる? あのね……」
 囁かれた言葉に侑は笑う。マリアの体を抱きすくめながら、その耳元にぼそりと返事を返した。
 手を繋ぎ、歩き出す二人。仲良く寄り添う後ろ姿が、街の中へと溶けていった。



イラストレーター名:Bee