●『Very Merry X'mas』
「クリスマスの飾り付けしようよ」 最初にそう口にしたのはどちらだったろう。 空は冬特有の微かな灰味を帯び、吐く息は視界を白に染めて瞬く間に散っていく。 けれどそんな景色とは対照的に、街は日々彩りを増していた。 クリスマスは、もう間近。
「えっと、ツリーはバランスよく飾った方がいいよね」 「んー、この色のがいいかな……」 義仁が全体のバランスを見て、尚がモールや電飾を飾りつけていく。緑一色だった背の丈を超えるほど大きな樅の木も、2人にかかれば順調にクリスマスの装いへと姿を変えていく。 ――かと思いきや。 「う……義仁ー、これ取ってー」 「え?」 尚の声に振り返る義仁。 「……うわぁ、派手に絡まったね……」 そこにはすっかり電飾を身にまとった、もとい、派手に絡まった尚がいて。作業を一時中断して、すぐさま取り外しの作業が始まったりもしたけれど、2人の間に笑顔は尽きない。 「お星様は最後に飾るとして……」 次は部屋の飾り付けへと取り掛かった義仁をよそに、ふと尚の眼が止まる。視線の先にあるのは義仁の背中。そして、余ったツリーのデコレーション。 その後も義仁は一心不乱に、尚はコソコソと、一言も発さずに着々と飾り付けを進めていく。 「よし、てっぺんにお星様を……」 やがて最後の仕上げにと、義仁が背伸びをしたその拍子。
――じゃらんっ。
「……あれ!?」
じゃら。 じゃらん。
何事かと背を見ようと動く度に、それに合わせて赤や青の華やかなボールが、リボンの結われた小さなベルが、音だけを残して揺れ動く。 「ツリー義仁のかんせーいっ」 「ちょ……、ひさ?」 そういえば今までも何度か、動き難さに眉間に皺を寄せることもあった。だが、こうなるまで気付かずにいたのは、飾り付けに集中してしまっていたからだろう。 楽しさを隠すつもりもない尚の様子に、漸く義仁も事態を悟る。 どうしたものかと困惑の滲んだ目線を向けるよりも早く、義仁を包んだのは、背後から伸びた尚の両腕と、吐息を感じるほど近くで囁かれた声。 「俺だけのクリスマスツリー、絶対離さないんだから」
12月。 やがて外の景色が真っ白に染められる日も来るだろう。 苦手なものはどんどん増えていく。 けれど、外がどれほどに寒さを増しても、景色がどれほどに色を失っても、何よりも大切な温もりは今、触れ合う手の内にあって。 「メリークリスマス」 喜びに満ちた尚と、真っ赤になった義仁と、続けて口にした言葉は聖夜への祝福。 重なった声もまた2人の想いを表すように、微笑みにも似た暖かな響きを宿していた。
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