●『薔薇の下で囁いて』
「さて、神威が来る前に隠しておかないとな」 クリスマスに沸く街中を、銀髪の青年――ツカサが、キレイにラッピングされた小さな箱を持ってうろついている。 やがて目的のものが見つかったのか、悪戯っぽい笑みを浮かべつついそいそと箱に紐を通して『吊り下げる』。 「これでよし、と。他のと間違わないように神威へのメッセージカードも付けたし、大丈夫だな」 楽しんでくれるといいな。そんなことを考えながら、『ゴール』からそそくさと離れるツカサなのだった。 「うーん? どこだろー、ここでもないなー」 場所を少し移した夕暮れ時。 黒髪の少女が何か落し物でもしたのか、辺りを探し回っていた。 「ヒントが少なすぎるよなー。『温室の外』ってだけじゃなー」 ぶつぶつと呟く不満とは反対に、その表情は本当に面白そうである。 「へへっ。プレゼント探しって、なんだか宝探しみたいだな」 そう、探しているのは、恋人であるツカサが隠した自分へのプレゼントなのだ。 普通に渡すよりも、と考えたツカサの目論見は成功し、神威は『宝探し』でもしているような感覚でこのイベントを楽しんでいた。 (「一生懸命プレゼントを探す神威は微笑ましくていいなあ」) 離れた所からその様子を眺めているツカサもご満悦だ。 そのままずっと見ていたいと思うツカサだったが、さすがに日も落ちてきたので、ヒントを出して終わりにすることにする。 「ヒント?」 「そう。この辺りで一番『立派』な木の枝に結び付けてあるんだ」 「立派?」 「豪華、といってもいいな」 「?」 すぐには答えを閃かない神威だったが、辺りを見回すと分かったのだろう、飾り付けられ色とりどりに輝いているクリスマスツリーへと向かって走り出していく。 「あった! これだ!」 「開けてごらん?」 「なんだか、こういうのってドキドキするなぁ……」 期待に胸を躍らせながら、少し慌てた手つきで包みを解いていく。 「あ、え――?」 中から出てきたのは、綺麗な青い宝石のついた銀色の指輪。 驚き戸惑う神威の左手に、ツカサがそっと指輪を嵌めていく。 「っ、神威? え? どうした?」 「……う、嬉しい、よぉ」 突然俯きしゃくりあげた神威は、ぽろぽろと涙を零しながら『嬉しい』『ありがとう』を繰り返す。 恋人の涙に慌てたツカサは、少女を必死になだめ、落ち着かせる。 「もう大丈夫か?」 「うん……。あ? え? ん、う――」 神威の感情が一段落するのを待って、ツカサはそっとその小さな唇へ口づける。 驚き目を見開いた神威は、嬉しさに再び涙を流しながら、瞳を閉じて受け入れる。 こうして様々なサプライズに彩られた今年のクリスマスは、二人にとって忘れられない思い出になるのだった。
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