●『こうしてれば暖かいだろう?』『まぁ、ね』
クリスマスに賑わう街を悼哉と燎の二人は歩いていた。 (「デートって言ったら絶対ついてこなそうだしな……」) そう考えた悼哉は今日この日、クリスマス当日に買い出しという名目で燎を街へと誘ったのである。 誘われた燎は悼哉の推測通りと言う感じで、心を落ち着かせる為に自分に今の状況を言い聞かせていた。 (「買い出し、これは買い出し! だから何も不自然じゃない!!」) そう自分自身に精一杯自己暗示をかけて、恥ずかしさを隠している。
最初はそんな風に少しぎこちなかった二人も街を歩くうちに、湧きたつような街の雰囲気に自然な感じでなじんでいった。 街中には幾つものツリーが立ち並び、店や通りにも様々な飾り付けがされ、街をクリスマス一色という感じに染め上げている。 その飾り付けにもうひとつ加えるかのように……空から白い欠片達が舞い降り始めたのは、二人が街に出てしばらく過ぎた頃だった。 「あ……雪だ。どおりで……」 寒さの正体を目に止めた燎がマフラーに顔を埋めながら小さく呟く。 その姿に微笑を浮かべながら悼哉は近くの自販機へと足を向けた。 「ほら、コーヒー飲むか?」 そう言って差し出されたコーヒーを燎は礼を言って受け取り、温かさを手で味わうかのように両の手でつかむ。 その仕草に、可愛らしさに見惚れているうちに……悼哉の内にむくむくと……悪戯心とでも呼ぶべき何かが生まれてきた。 「燎、こうしてれば暖かいと思わないか?」 「っ!?」 突然後ろから悼哉に抱きしめられた燎は驚いた後、それを誤魔化すようにつとめて冷めた言葉を発した。 「……ばか」 そう口にはするものの、背中のぬくもりは無下に振り払えない暖かさに満ちていた。 ほんの少しだけ素直になれる…そんな自分を実感する。 そんな燎の態度が悼哉には、やけに素直で可愛いらしく感じられて。 身だけでなく心も暖かくなる様な……しあわせなひと時が過ぎていく。
クリスマスプレゼント……かな? 目の前を静かに降りていく雪を眺めながら……ふと、心の内で呟いた想いは二人とも同じ。 クリスマスに空がくれたサプライズ。
そんなひと時が過ぎる頃……二人は気付いた。 ここ……人通りの多い街角なんですが。 「……!? 悼哉! 離れろよ!!」 我に返ったかのように、燎は慌てて悼哉を引き離す。 「おっまえなぁ……」 さっきまであんなに素直な感じだったのに。 そんな事を思いながら、悼哉は少し大げさに肩をすくめて見せた。
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