●『ふたりのクリスマス 〜よし、ケーキ作ろう。』
「鈴、折角のクリスマスなんだ。しかも僕らが出会って初めてのクリスマスなんだぞ? 今からレストラン……っていうのも無理な話だし、せめておうちで盛大にお祝いしたいんだ」 ナズナが鈴にそう言い放ったのはクリスマスの当日だった。 世の恋人達が身を寄せ合い、愛を確かめ合う聖なる夜である。 ちなみに二人の居場所は風屋家。 鈴の格好はいつも通りだったが、ナズナは暖かな色合いのピンク色のメイド服にエプロンも身につけ、手にはケーキ作りセットまで抱えているという張りきった格好だった。 「……じゃあ、作るか」 突拍子もないという次元を超えたタイミングでの提案にもかかわらず、さらりとマイペースな発言で青年は彼女の言葉に頷いて見せる。 ナズナと鈴のクリスマスは、そんな風に始まった。
「こっち苺用意できたぞー?」 「ん、じゃあ並べて」 鈴の言葉にナズナはういっすと頷くと、真っ白なクリームできれいに包まれたケーキの上に苺で猫の絵を描き始めた。 「……まんべんなく、並べてな?」 少しの間それを眺めていた鈴が、冷や汗を流しつつ口にする。 「だって鈴は猫が好きだし、喜ぶかなと思……」 ナズナの言葉はそこで中断させられた。 鈴が苺をまんべんなく並べ始めた為である。 「ああ!? 隙間を埋めるな! 折角の猫が!?」 ナズナの悲鳴に聞き耳持たず、鈴はある意味非常に苺を並べていく。
その後も……いくつか色々ありつつも、ケーキは無事に完成した。 「……で、何で猫だらけ?」 クリームのデコレーションを仕上げた鈴がまるで再現のように冷や汗を流しながら、砂糖菓子の猫を飾りつけしようとしているナズナに質問する。 「だって鈴は猫が好きだし、喜ぶかなと思って」 先程と同じ言葉をナズナは口にした。 先程との違いは鈴が途中で行動を起こさなかったことである。 「……まぁ、いいんだけど」 今回の彼は一言、そう呟いただけだった。 あ、否定するのをやめた……などとナズナもツッコミを入れたりはしない。 出来合いのご馳走を並べ、りんごソーダをグラスに注ぐ。 今日という素敵な日に感謝して、ささやかなお祝いをしよう。 「こんなのって言う人はいるかもしれないけど……」 僕らにとっては、素晴らしいディナーだから。 誰に言うでもなくそう呟くと、ナズナはグラスを手に取って目の前の大切な人に微笑んだ。
「はい、乾杯」 りんごソーダを満たされた2つのグラスが、チリンと澄んだ音色を奏でた。
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