●『聖夜のご馳走』
「料理、まだかな……?」 すきっ腹を抱えつつ、淡毅はキッチンへと静かに入っていった。 暖かなキッチン。コンロにはとろ火でナベがかけられている。できた料理が、運ばれるのを待っていた。 淡毅は、そんなキッチンで料理している樹生の後ろにそっと近づいた。淡毅の大切な人、大切な恋人に。 今宵は、そんな大切な恋人と体験する……初めての、クリスマス。 「……少し、寒そうな服だな」 同時に、『もう少し寒そうでも良いかも』と思う自分に気づき、淡毅は赤面した。 今の彼女は、フリルのついたかわいいエプロン姿。そしてエプロンの下には、やはりかわいいデザインの服。背中や二の腕、太股などが露になっており、淡毅の眼を引き付けた。 気がつくと、彼は後ろから樹生を抱きしめていた。 「きゃっ……! くろたん?」 樹生はちょっと驚き、すぐに安堵した表情を浮かべる。 「あん……包丁使ってるから、危ないよー」 「樹生、料理はまだかい?」 「ごめんねー。あと、もうちょっとだから」 顔だけ振り向きつつ、樹生は淡毅へと微笑んだ。 軽い羽毛の様な、ふわりとしたほほえみ。この笑顔を見るためならなんでもできそうな、そんな気持ちがわいてくる。 そして、その気持ちと同時に……淡毅の胸の中に、満たされていくのを実感する。愛しく思う気持ち、照れくさく、暖かくなるような気持ち。そんな気持ちが満たされるのを。 自分の肌と、抱きしめている樹生の肌とが触れ合うと、そこからお互いの体温が伝わってくる。それとともに、心臓の鼓動も早まる。 樹生の胸元に眼をやると、さらに鼓動が早まりそうだ。今宵の彼女の服は、胸元が大きく開いているデザイン。エプロンでそれが隠されているものの、かえってそれが彼女の魅力を引き立てているかのよう。 淡毅が恥ずかしくなって視線をさまよわせると、樹生は何か言いたそうな、ちょっと心配そうな表情を浮かべていた。 「……きれいだよ、樹生」 淡毅は自分が、そんな言葉をささやくのを聞いた。 それとともに樹生は、ふっと表情を和らげてつぶやく。 「ありがと……ん……暖かい……」 樹生は包丁をまな板に置き、そのまま淡毅へと身体をゆだねてきた。彼女の感触によって、さらに体温が高まるのを淡毅は感じていた。 樹生が後ろに手を、淡毅の髪へと手を伸ばし、愛しげに撫でる。撫でつつ瞳をうるませ、淡毅の事を見つめてきた。 「……大好き、だよ。くろたん……」 まぶたが、静かに閉じた。 「ん……俺も、樹生の事……好きだよ……」 淡毅もまた、恋人の顔を見つめ……静かに、目を閉じた。 二人の唇が、重なった。恋人の唇の感触が、淡毅の唇から伝わってくる。甘い世界が広がり、その中心に二人でいるのを、淡毅は実感していた。 聖夜のご馳走。それをもっと味わうべく……淡毅は樹生を、愛しげに撫ではじめた。 「料理、冷めちゃったね」 「ふふっ、すぐに暖めなおすよ……メリー、クリスマス」
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