●『君と夜景に乾杯を』
クリスマスの夜に、『大人のデート』としゃれ込んで。 二人きりでディナーを楽しむツカサとセラス。 夜景の見えるレストランでデートだなんて、本当に大人になったみたい。 もっとも、ツカサの方は成人済みだったけど。まだ高校生のセラスはなかなかお目にかかることのない光景に、辺りをきょろきょろ。 「ほら、セラス。あんまりきょろきょろしていると笑われるぞ」 胸の大きく開いた黒のドレスに、赤い宝石の光るアクセサリー。すらりと高い長身に、長く伸びたストレートヘア。 見た目だけなら十二分に『オトナ』っぽいのに、セラスはどうにも落ち着かない。 「ご、ごめんなさい」 注意されて慌てて縮こまり、しゅんとした表情でツカサを見上げる。 「それにしても……今日はお化粧してるんだな」 そう。それだけの姿に加えて化粧までばっちり決めて来たのだ。少なくとも、出で立ちだけなら淑女に見えるはず。 「だ、大丈夫かな」 滅多にしない化粧に対してツッコまれて、少しうろたえてしまう。だがツカサはそんな彼女の様子を見て、微笑んだ。 「大丈夫。いつにも増して綺麗だぞ」 そんな風に言われてしまっては、ぽっと頬も染まってしまうというもの。 「ふふ、今日はクリスマスイブだからな。せっかくだから大人の雰囲気を楽しめばいい……っと、料理がきたな」 二人の間に、豪華な食事とまるでワインのようなボトルが運ばれて来る。 (「こ、こんな高そうな……ほんとにいいのかな」) すごく嬉しいけど、なんだか恐れ多い。また縮こまり気味になるセラスの前で、ツカサはボトルの中身をグラスに注ぎ始めた。 「あ、私まだ未成年……」 「はは、これは酒じゃないから、気軽に飲んでいいぞ」 ツカサはくすりと笑って、セラスにグラスを渡した。確かに香りを嗅いでもアルコールの匂いはしない。ジュースのようだった。 「ありがとう、せっかくの先輩とのデートだから……うれしいな」 「では乾杯といこうか。二人きりの聖夜に……乾杯!」 「ん、乾杯だ。メリークリスマス、先輩♪」 キン、と心地よいガラスの音が二人の間に響く。 こくんと飲み込んだそれは勿論ジュースなのだけれど、なんだか雰囲気に酔ってしまいそうだった。 「帰ったらもっと大人の雰囲気を楽しんでもらおうかな」 「あうあう……先輩のエッチ」 若い二人の『オトナ』の夜は、まだまだ始まったばかり。
| |