●『ケーキよりも甘い刻』
舞踏会が終わった後、今夜は二人でクリスマスパーティー。 「疲れましたー」 「お疲れさま」 テーブルに突っ伏す慧奈の許に、琉紫葵はテキパキと料理を運んでいく。 すぐに準備は終わり二人だけのパーティーが始まった。 「タキシード渡された時はどうしようかと思いましたよ」 「似合ってたからいいんじゃない」 「るし君もドレス姿が似合いすぎで」 食事をしながら自然と話題に花が咲いたのは、参加してきた舞踏会。 琉紫葵がドレスを着て慧奈がタキシードを纏い、どこか愉快な雰囲気で一曲踊ったのは……ほんの少しだけ前の事である。 男女逆転などというパフォーマンスをしていたのは自分達だけのようだったし、嫌でも目立ったに違いない。 「それで、あの衣装変更は何?」 ダンスが一曲終わったあと、それぞれ本来の性別に見合った衣装に着替えたものの琉紫葵が持ってきた衣装は更に二人を目立たせた。 「ウェディングドレスとタキシード」 「最近寝るのが遅いと思っていたら、あんなのつくってるし」 しれっと口にする琉紫葵に、慧奈の頬は膨れ気味。 「いい機会じゃないかなぁって」 「どんな機会なのか聞いてみたいですよー」 ぱくぱくと八つ当たり気味に慧奈は料理を口に運ぶ。 「だから、ラストダンスで言ったじゃない」 「あぅ……あれ、本気ですか」 ぴたりと止まる慧奈のナイフとフォーク。 その瞬間を思い出すだけで……言われた言葉と聞いた瞬間の自分の内心のうろたえぶりが鮮明に浮かび、自然と頬が熱くなる。 「あの格好であんな冗談言えないし」 対して琉紫葵の態度や口調は相変わらず。 「あの格好だからこそ、成り立つ冗談もあると思いますよー」 自分ばかり驚かされたり照れたり、恥ずかしがったりしてばかりで、何か……ずるい。 落ち着きぶりや自然な感じが大人びていて……自分よりずっと年上の様な、そんな雰囲気を感じてしまう。
「じゃ、もう一回言うから」 あの時と同じような態度で、口調で、目の前で……琉紫葵が口を動かす。 「結婚しよう、慧奈」 けれど……あまりに真っ直ぐで何の飾りもない純粋すぎる今のような時は……むしろ歳よりずっと幼い子供のようにも思える。 結論として……分からない。 「うー、るし君はいつも突然でずるいですよ」 真っ赤になりながらも慧奈は嫌とは言わなかった。 いつもいつも……こうなのかも……そんな想いはあるものの、口には出せていない気持ちも真実だから。 だから、気持ちは籠めても調子は今までと同じような感じで言葉を発した。 「ケーキの入刀くらいはしてあげますけど、それ以上はお預けですよー」
一つのナイフに二つの手が添えられる様は流れるように自然で。 先刻のダンスと同じように……ふたりが共にある様を、示していた。
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