●『暖かな腕の中で見る幸せな夢』
淡い色に彩られた部屋の中で、二人はいつものように話をしていた。 「ったく、なんでメイはいつもそうなんだよ」 「えー、紅星には言われたくないよ」 紅星が言うと、明月がプクッと頬を膨らませた。 だが、一見怒っているように見えるその表情の裏で、彼女が感じているのは確かな暖かさ。 クリスマスオーナメントが飾り付けられた部屋の中で、二人は炬燵に入って同じ柄の色違いのカップに注いだココアを飲んでいる。 今夜がイブであっても、その光景は変わることなく、特別でも何でもない普段通りの二人。 紅星が、後方に片手をついてココアを啜る。 炬燵の上には小さな小さなクリスマスツリーが置いてあって、彼はそれを見て、ああ、そういえば今日はクリスマスイブか、と思い当たった。 「イブ、か……」 呟いてから、またココアを一口。 巷では恋人の季節だなんだと言っているが、どうにも紅星にはピンと来ない。 特別な存在、という感覚が彼には分からないのだ。 特別な存在。 それは、例えば今ここにいる彼女のような存在のことなのだろうか……? と、紅星が思って明月の方を見てみると、明月が炬燵の上に突っ伏していた。 「……おい、メイ?」 明月の顔を覗き込んで、紅星が呼んでみる。 彼が見た先には、すよすよと安らかな寝息を立てて寝入っている明月の寝顔があった。 「…………マジか?」 数分前でもない、一分経ったかどうかというほどの短い間に寝入ってしまうとは。 「おーい、炬燵で寝ると風邪ひくぞ」 紅星はちょっと声を大きくして呼びかけるが、明月は目覚めずにむにむにとするだけだった。 「あー……、しょうがねぇなぁ」 呆れ顔で髪を掻いて立ち上がると、紅星は明月の所まで近寄って彼女の身体をお姫様抱っこの形で抱き上げる。 身体を揺らされても動かされても、明月が起きる気配はない。 「幸せそうな寝顔しちゃって、まぁ」 紅星は彼女を抱き上げたまま、ベッドに連れて行こうとした。 だが、その途中、彼はふとその足を止める。 彼の腕の中には、幸せそうな顔をして寝ている相棒の顔。 「……ん」 明月が、小さく呻いた。 気が付けば紅星は、明月の額に口づけていた。 自分の行動に気付いて、仄かに鼓動が高まる。今、明月がもし、目を覚ましたら……。 その考えに背筋を竦ませる紅星だったが、幸い、明月は目覚めずに眠り続けていた。 「ハハ、やれやれ……」 自分の行動と思考に苦笑して、彼は明月をベッドまで運んだ。 布団を掛けてやってから、彼は明月の寝顔を見ながら思った。 特別ってのは、よく分かんねぇな……。 「んー……、紅星」 明月が、寝言で彼の名を呼んだ。 「俺はここにいるぜ」 紅星が答える。 彼は、明月の顔を眺め続けていた。 ココアが冷めて美味しくなくなっても構わずに、ずっと、眺め続けていた。
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