白羽・綾 & キリーズ・ヴェルガグズ

●『お兄様の大好きな物で作りましたぁ♪』

「お兄様、いらっしゃいませぇ〜♪」
 クリスマスの日、前々からの約束の通り、キリーズは綾の元を訪れていた。
 猫変身して猫の姿で訪れたキリーズを、そう綾は満面の笑顔で迎え入れる。ぺたぺた、てとてと。2人並んでリビングに向かうと、綾は「ちょっと待ってくださいね」と足早にキッチンへ姿を消した。
 そして、ぱたぱたとすぐに戻ってきた綾の手には、大きな大きなケーキがあった。
「じゃじゃーん♪ 綾、がんばって、お兄様の大好きなマタタビ入りケーキつくったのですぅ〜♪」
「ふにゃっ!?」
 綾の言葉を聞き、即座に目を輝かせて反応するキリーズ。ふわんと漂うマタタビの香りがキリーズを刺激して……。
「ふにゃぁぁぁぁん!!」
「ひゃ!?」
 キリーズは大きく飛び上がると、そのまま綾の手の中のケーキにダイブ! 驚いて目を丸くする綾の手元から、その衝撃でケーキが飛んでいく。
 でも今のキリーズにとって、それはほんの些細なこと。クリームまみれになりながら、ケーキと一緒に床に落ちたことなんて、これっぽっちも気にせず、ごろごろと喉を鳴らしてケーキに埋れる。
「ごろにゃぁぁぁん……!」
 とんでもなく嬉しそうなキリーズの様子に、綾は思わず吹き出した。
 キリーズの為に、一生懸命頑張って作ったケーキ……怒るなんてとんでもない。こんなに喜んでくれて、それが綾にとっても、すごく嬉しかった。
「すごく喜んでくれて嬉しいのですぅ〜♪ ……でも食べ終ったらお風呂ですねぇ〜」
「んなー……」
 くすくす笑う綾の声に、ぴくりとキリーズの鳴き声が返る。ちょっと不満げなのはさておき、綾は用意しておいたフォークを取り出して。
「キリーズお兄様〜。あ〜んしてくださぁい?」
「にゃー」
 一口分、差し出したケーキにぱくんと飛びつくキリーズ。マタタビに酔っていても、ケーキはやはり美味しいらしい。じゃあ、と綾もまたケーキをフォークで取ると、同じように口に運んで。
「ちょっとぉ、ぐちゃぐちゃになっちゃいましたけどぉ、美味しいですねぇ〜♪」
「にゃっ!」
 くすっと笑う綾にキリーズも頷き返す。
 形は崩れても味は変わらない。こんな風に、一緒に食べる楽しさが、むしろよりケーキを美味しくしてくれるようにすら感じてしまう。
 ひとまず今は、このケーキを一緒に食べよう。
 綾とキリーズは、互いにほっぺにクリームをつけつつ、美味しい美味しいマタタビケーキを味わうのだった。



イラストレーター名:氷堂瑠依