●『ふたりのクリスマス〜久しぶりの“家族”〜』
雪のちらつくクリスマスの空。春夜はライトアップされたクリスマスツリーの前にいた。 すっかり冷たくなった手で、携帯電話を閉じたり開いたりしている。 春夜はむー……っと眉間にしわを寄せながら、携帯電話の待ち受け画面を眺めた。メールは一件も届いておらず、着信もない。 (「……何やってんだよ……。こっちは約束より10分も早く来たってのに……」) 彼が待っているのは、昔からの友人である陸都だ。学園を卒業してからはお互い忙しくなってしまったため、クリスマスを一緒に祝うのは久しぶりなのだ。 にぎやかな街中で、一人ぽつんと陸都を待つ春夜の目の前を、ふとカップルが横切る。腕を組んで幸せそうなその様子に、春夜は少しだけ切なくなった。 (「早く来いよ……」) 春夜は小さくため息を吐く。陸都が来たら文句の一つでも言ってやろう――そう思いながらぎゅっと携帯電話を握りしめる。 不意に誰かの手が、春夜の頭にうっすらと積もった雪を払った。 振り向けば、そこにいたのは苦笑を浮かべた陸都。 「……すまん。仕事で少々遅れた。……久しぶりに一緒なのにな」 頭の中にいくつも用意していた文句は、陸都の謝罪であっという間に消えてしまって。 代わりに春夜の口から出たのは、冗談めかした言葉。 「――いいよ。その代わり夕食奢れ」 「……仕方ないな。とはいえ、学生に払わせられるか。元々払うつもりだ」 春夜のセリフに陸都はふっと微笑むと、再度春夜の頭を優しくなでた。 「こ……子供扱いすんなよなっ!」 恥ずかしさに頬を赤らめ、春夜はふいとそっぽを向く。子供扱いされることを嫌がりながらも手を振り払おうとはしない春夜に、陸都はただ笑う。 陸都の穏やかな笑みに、春夜はちぇ、と小さく舌打ちをした。むすっとした表情のままでいようとしても、陸都と一緒にクリスマスを過ごせることを思うと、嬉しさに自然と笑みがこみあげてくる。 「よっし、思いっきり食ってやるからな」 「ほどほどにしてくれよ」 春夜は照れ隠しのようににっと不敵に笑い、陸都はくすくすと楽しそうに笑う。 「さあ、行こうか」 陸都は春夜の手を引くと、イルミネーションの輝く街へ向かって歩き出したのだった。
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