●『聖夜のBirthday』
クリスマスイブの街は、華やかに彩られていた。店や街路樹に飾られたイルミネーションがまたたき、まるで満天の星が地上に降りてきたようだ。美しくライトアップされた街並みを見ようと、親子や恋人達が笑顔で行き交い、どこからかオルゴールのクリスマスソングが流れてくる。 (「いつも見る街が、これほどまでに華やかになるのか」) 感嘆しながら、和司は雪希と共にツリーのある広場へ向かっていた。 雪希は辺りの景観に圧倒されているようで、きょろきょろとしていつもより落着きがない。 イルミネーションにクリスマスツリー、など少し定番過ぎるかと思ったが、きらめく明かりは美しく、雪希も楽しんでいるようなので正解だったようだ。 広場の真中にあるクリスマスツリーは、ひときわ豪華に飾られていた。傍へ行くと、少しまぶしいほどに。一年に一度、短い間だけしか見られない輝き。それを見上げているからか、和司はどこかこの夜がいつもと違う事を感じていた。 「きれい……」 ツリーを見あげながら、雪希が呟く。 「雪希」 振り返った雪希に、和司はポケットからプレゼントの小箱を取り出して見せた。 「メリークリスマス。そして、誕生日おめでとう」 (「さっき、今夜が特別だと感じたのは、今日が雪希の誕生日だからかも知れないな。イブだからでもなく、イルミネーションのせいでもなく、大事な人が生まれた日だからなのだろう」) 誕生日の祝いも、とは思っていなかったようで、雪希は軽く目を見開いた。けれどそれは一瞬で、すぐに笑顔になる。 和司が小さな箱から取り出したのは、優美なピンクゴールドのリングだった。細いチェーンが通してあり、ネックレスになっている。綺麗な長い髪に絡んでしまわないように気をつけながら、雪希の首に巻く。淡いピンクの輝きは、彼女の白い肌によく似合った。 「ありがとう、ございます。……嬉しい」 離れかけた和司の手を、雪希が両手でそっと包んだ。手を通して、互いのぬくもりが伝わってくる。 そっと微笑む雪希に、和司も静かな笑みを返す。雪希がいるだけで心が温かくなる。心が安らぐ。どうか、これからも傍に、これからも共に。 (「ありがとう、雪希。出会えた事に感謝する」) 口には出さずに、和司は心の中で雪希にそう語りかけた。
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