●『森のおおかみ・閉店後の貸し切りパーティ』
「……前々から思ってたんだけどさ」 お客さんのいなくなった閉店間際の喫茶店で、氷姫は、閉店後のクリスマスパーティの準備をしている稜牙を見つめながら口を開いた。 「なに?」 稜牙は手を止めずに、顔だけ上げて氷姫と目をあわせる。 「何でも自分で出来るのはいいけど、たまには世話焼かせてよ」 氷姫は稜牙の手に視線をうつす。普段から、炊事やら何やらを手伝おう。と、氷姫が言い出す前に、稜牙はさっさと終わらせてしまう。氷姫は、そんな稜牙のことをありがたいと思いつつも、ちょっと寂しく思っていた。 「いつもいつも稜牙に甘えっぱなしだし、今日くらい……ね?」 氷姫が稜牙に微笑みかけると、稜牙は動かしていた手を止め、 「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうぜ」 そう言うと、氷姫に調理場を譲って、店内の片付けを始める。 「掃除はお願いね」 店内の掃除までは手が回らないので、氷姫は稜牙に掃除を任せると、フライパンを火にかけはじめる。稜牙は手際よく店内を片付けると、店の外に『CLOSED』と書かれた看板を出し、冷蔵庫からジュースを2人分用意してから、椅子に座り、氷姫が料理をする様子を微笑ましく見守る。 (「普段から好きで色々やってはいるんだけども、たまには甘えるのもいいだろう」) と、思いながら、稜牙は料理が出来上がるのを眺めていた。 「おまたせ♪」 程なく料理を作り終え、盛り付けたお皿をカウンターに置いた氷姫は、エプロンを外しながら稜牙の隣に腰掛ける。 「今年も色々あったけど、無事にクリスマスを迎えられたな。メリークリスマス」 「メリークリスマス♪」 2人はお互いにグラスを手に取り、乾杯する。 「……いつもありがと。お互いに、だけどね」 氷姫は一口ジュースを口に含むと、そういいながら上目遣いで稜牙を見つめる。 「ああ、いつもありがとな……毎年思うけど、綺麗だぜ。氷姫」 稜牙は微笑むと、料理を口にする。氷姫は馬鹿。と小さくつぶやき、そっと肩を稜牙の方へよせる。ゆっくりと流れる時間を楽しく過ごしながら、2人は今年の出来事を思い出し語りあった。
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