文常・語 & 芳野・鈴女

●『カウントダウン』

 クリスマスの夜、鈴女は自分にとって大事な人、義兄の語、通称あやにぃと一緒に過ごそうと、彼を部屋に呼ぶことにした。
 一緒に揃ってクリスマスを迎えるのは久しぶりだから、きっと楽しい一日になると思い声をかけたのだ。
「メリークリスマス。スズ♪」
 スーツ姿の語は、優しい声で愛しい義妹に言葉をかけてくる。
「あやにぃ。いらっしゃい。来てくれて嬉しいです」
 嬉しさから自然に零れる言葉達。
「スズ、今日の服可愛いなー。街ですれ違った女の子等よりもいっちゃん可愛いで」
「そ……そんなことないですぅ!? 早く入って下さい、あやにぃ」
 照れもせず言う語の言葉に、慌てる鈴女は、ごまかすように語を温かい室内に迎え入れる。

 二人は、色々な話をした。
 クリスマスという雰囲気がそうさせるのか、次第に二人の距離は近くなっていく。
 鈴女は、楽しさが先行して、殆ど気にしていない様だが、心配になるのは語の方である。
 何と言っても二人とも思春期を迎えている男女。
 鈴女に二人っきりでクリスマスを祝おうと言われた時だって、男への警戒心が無いんじゃないかと心配になったものだ。
(「年頃の女の子が部屋に男入れちゃアカンやろ、まあその誘いが僕やったから良いようなもんやけど。他の男にまでこの調子やったら僕、心配やで。……しかしこの体勢はマジアカンて」)
 何せ、鈴女は語の膝の上に乗っているのである。
 義妹といえど、ここまで密着されると自然とドキッとする。
(「そうやな〜、ちょっとは警戒心持ってほしいしな〜、ちょこっと驚かせたろか」)
 語はニヤリと笑うと鈴女の名前を優しい声で呼ぶ。
「……スズ」
「何? あやにぃ? えっ!?」
 鈴女が語の方を向くと、顎を掴まれ、語の唇が近づいてくる。
 語は目を閉じている。
(「嘘!? キス!? あやにぃが!?」)
 鈴女の頭の中はパニックで突き飛ばすことも出来ない。
「ちょ、ま、だだだ駄目っ!!」
 声に出して言うのが精一杯だった。
 鈴女の心臓がドキドキしている。
 少しの時が経ち、何も起きないのが不思議で、いつの間にか閉じていた瞳を鈴女が開くと、そこには語の唇が寸前まで来ていたがそれ以上進むことはなく、語は悪戯が成功した少年の様な顔で舌を出した。
「……残念でした、と」
「あやにぃ!」
 鈴女の声が響く。
 顔を真っ赤にして、怒りにまかせてクッションで語を叩きながら鈴女は考えている。
(「もう、ホントにキスされちゃうかと思っちゃいました。……あやにぃとキス……。何考えているの私。……あやにぃの馬鹿」)
 鈴女のクッション攻撃を受けながらも語は笑顔を崩さなかったが、内心少々焦っていた。
 何故なら、もう少しで本気でキスしてしまいそうになっていたから。
(「どうやら相手を異性として意識しとるのは、僕の方らしい」)
「……兄妹の時間は、もう終わりかもしれんな」
 語の言葉は、鈴女のクッション攻撃の音でかき消された。



イラストレーター名:一二戻