●『好き嫌いはダメですよ〜♪』
寒い。 12月24日。正午。司・葬は温かい飲み物片手に、校舎の屋上に居た。 寒風が吹き、寒さを感じる。ましてや校舎の屋上のベンチに座っているのだから、その寒さを嫌でも体感してしまっていた。 「冬の空って、きれいですよね〜」 ベンチに座り、空を見上げる。飲み物を少し飲み、葬はつぶやいた。 「ええ。なんだか空気が澄んでいるみたいです」 黒髪の女性が、葬の隣に座っていた。 やや短めに切り揃えているが、髪は漆黒で美しく、白い肌は上品な魅力をかもし出している。彼女が着ているサンタの衣装の赤色が、より一層美しさを引き立たせているかのよう。 葬は、彼女を見つめた。 国見・繭。葬より年上の女性。そして、葬の年上の恋人。彼女は微笑みつつ、鞄より包みを取り出した。 「お弁当、作ってきたんですよ」
「葬さん、あーんしてくださいな♪」 繭はにっこりしながら、フォークでおかずの一つを突き刺し、葬の口元へと差し出した。 ちょうど昼時。この状況で、拒否する奴などいない。が……。 「? お腹、すいてないんですか?」 躊躇している葬を見て、繭は怪訝そうな表情を浮かべた。 「あ……えっと……」 大人の女性を恋人にしていても、葬はまだ少年。それも十代前半の子供。そして、子供特有の好き嫌いはまだ、治っていなかったりする。 弁当の中には、彼が好きな惣菜と同じくらい、彼の嫌いなものも詰められていた。 「好き嫌いはダメですよ〜♪。成長期なのに好き嫌いなんかしてたら、栄養が偏ります」 母親みたいな口調で諭す繭。こういう時は、子供扱いされているようでちょっと複雑。 「それじゃあ、こうしましょう」と、繭は提案してきた。悪戯っぽく、にこっと笑う。 「嫌いなオカズを食べられたら、そのたびに御褒美としてキスしてあげますね♪」 「え、ええっ!?」 参った。そんな提案されたら、食べざるを得ないじゃないか。 「じゃあ……」 ぱくっ、もぐもぐっ、ごくんっ。 「……どうです?」 「……やっぱり苦手、この味」 繭の顔が、ちょっと心配そうになる。 「でも……」と、葬は続けた。 「……おいしいです。なんだか、繭さんが作ってくれたのが、嬉しくて……」 とたんに、繭の顔がぱっと明るくなった。 「………♪」 「…………」 どちらともなく、葬と繭は互いを見つめあう。 この時、特別な日に、特別な人と過ごす時間。それはあっという間に過ぎていく。そんな時間が過ぎていくのを惜しむかのように、二人は手を重ね、そして……微笑んだ。 どちらともなく、静かに、そっと顔を寄せる。眼を閉じた繭を見て、葬もまた、目を閉じた。 繭の唇の感触が、葬の唇に伝わった。柔らかく、優しい、愛しい恋人の味。 互いに重ねた手の温もりが、より一層強く感じられる。それをもっともっと感じたいと、二人は指を絡め、互いの手を握りあった。 冷気をはらんだ冬空の下。恋人たちはいつまでも、熱い口付けを交わしていた。
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