赫蒼・ハズレ & 乙・一

●『白と赤と青に抱かれて』

「……とっ」
 大きなクリスマスツリーがある白銀の世界。
 月明かりやクリスマスイルミネーションに彩られながら、一組のカップルがダンスを踊っていた。
「……とっとと」
 しかしそれは幻想的なワルツには遠い。
 慣れない服装で踊っていた一は時折ステップを踏み外し、たたらを踏む。
「よっと」
 ステップがずれて一瞬驚いたものの、ハズレは彼を受け止めた。
 紅いドレスにハイヒール。雪の上では動き辛いはずなのだが、彼女の動きは華麗なものである。
 普段の様子からは想像は難しいが、ハズレは芸術面に関しては万能なのだ。
「あー……すまん。これじゃカッコ悪いよな」
 そんな彼女と比べるて自分は……一はバツが悪そうな表情を浮かべる。
 男の意地としては彼女をリードしてあげたい所なのだが……。

 だが彼とは逆に、ハズレはこの状況が嬉しく思えていた。
 普段乱されがちなペースを自分からリードしているこの構図。
 いつもとは逆なこの状況を、これはこれで役得かな……と喜んでいるようだ。
 ……それと同時に、思っている事がもう一つ。
「なあに、おめえは最高にかっけえよ。なんせこのあたしの連れなんだからな。ひひひ!」
 普段の姿であろうと、今の頼り無さそうな姿であろうと、自分にとって一は最高の男である事に代わりは無いという事。
「な、何言ってるんだ!?」
 足元がおぼつかなくて、わたわたしている状況に更に不意打ちの言葉。
 一は必死にバランスを取ろうとしていたが、更にわたわたする事となってしまった。
(「……でも、この姿の一も可愛いんだけどなっ!」)
 まぁつまり、ハズレにとって彼以上に面白い存在はいないのだろう。
 カッコいい一も、面白い一も、全てが気に入っている訳なのだから。
「まあなんだ。せっかくだからもうちょいこんままでいね?」
 彼を支え密着に近いこの状況下で、ハズレの口からふとそんな言葉が漏れる。
「あ、ああ……」
 またしても不意打ちの言葉に、一も頬を赤く染めつつコクリと頷いた。

 雪の妖精が舞い、様々な光が演出するこの幻想世界で。
 二人はしばらく見つめ合っていた……。



イラストレーター名:百合塚