●『キジバトの意味-青い鳥は幸福を、赤い鳥は真実の愛を-』
銀誓館学園の小道は、今宵優しくライトアップされている。そっと寄り添って歩くふたりは、ツリーに飾られたキジバトの飾りを、それぞれお土産として一つずつ手に取った。愁は青、紗耶は赤。おそろいのものを身につけるのは、それだけで何となく嬉しい。けれど、愁は真剣にキジバトの飾りを見つめて何かを思い出そうとしている。 「愁クン、どうしたの?」 「……ん、ううん。何でもないよ! それよりプレゼント、交換しよう?」 愁の様子に首を傾げる紗耶。愁もはっと我に返り、目の前の幸せに意識を戻す。そう、今日は大切な人と過ごすクリスマスの夜。 「メリークリスマス〜♪ 大したものじゃないけど、気に入ってもらえれば、だよ〜」 「メリークリスマス! 剣はラディさんに、鞘は愁クンにね? 気に入ってくれたら嬉しいな♪」 ツリーの下でお互いのプレゼントを交換し合う。愁が紗耶に贈ったのはネックレス。きらきらと輝く可愛らしい蝶のモチーフを見て、紗耶が嬉しそうに目を細めた。 「えへへ、ありがとう! 着けてみるね!」 紗耶がネックレスを首にかける間、愁も渡されたプレゼントを開ける。そこにはカランコエの花模様が刻まれた剣、そしてペチュニアの花模様が刻まれた鞘で一対のペンダントが収まっていた。使役ゴーストのラディにもプレゼントをくれたことが嬉しくて、それから。 「ありがとね〜♪ あ、これ……」 『鞘』は自分へのプレゼント。刻まれたペチュニアの花模様を見、そこに込められた意味を理解した愁は途端に顔を赤くした。 「花の意味? 調べてみて。ヒントはー……」 「とゆーか、えと、その……実は知ってるとゆーか……!」 ペチュニアの花言葉、それは『貴方といると心が安らぐ』。表情の変化にきょとんとする紗耶から顔を逸らし、ツリーを見る振りで愁はその意味を何度も反芻した。 だって、そう思うのは、自分も同じだから。 同じ事を思える幸せ、同じ気持ちを相手からもらえた幸せを噛み締める。
「ねえ、愁クン。このキジバト、大事にしようね」 「……うん!」 さっきからどうしても思い出せないこと。ふたりの手元で揺れる赤と青のキジバトの飾りが、愁の記憶の奥底を刺激するのだけれど、言葉として出てこない。 いつか何かの拍子に、クリスマスでも何でもない日に思い出すのかもしれない。 クリスマスのキジバトが象徴するもの、それは深い愛情、真実の愛……ふたりの間に芽生えかけているものだということを。
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