影檻・鏡夜 & 神夜・彩希

●『only one――』

 背の高いモミの木の頂点には大きな星が飾られ、流れ星の軌跡のように長く延びた色鮮やかなイルミネーションの光が、夜の公園を幻想的に照らし出していた。
 噴水から立ち上がる水もキラキラと輝き、控えめな水音が優しい音楽のように流れる。
「わぁ……綺麗っ」
 その光景に足を止めて、彩希は無邪気に笑う。
「ええ、本当に」
 せわしなく明滅するイルミネーションに、目を奪われている彼女の後ろでは、鏡夜も満足そうに微笑んでいた。
 だが、光が途切れた瞬間に現れる鏡夜の表情は、どこか思いつめたようにも見える。
 楽しいはずのクリスマスのデートに、似つかわしくない彼の表情を彩希はまだ気が付かない。
『貴方の優しさは貴方の唯一にあげるものよ』
 数日前、彼女の言った言葉が迷っていた鏡夜の思いをはっきりとした形に固めていた。
 2人で悩み、共に励まし合い、感謝を贈りあう。
 そんな2人の関係は少しずつ変わり始めた。
 彩希を護りたいと願う鏡夜と、鏡夜に芽生えた思いに戸惑う彩希。
 心地よい関係を崩したくなくて、自分にそう言い聞かせて彩希は鏡夜を突き放した。
 そう思っていた。
 だから今日も彼女はその思いを表情に出さず、いつも通りに振舞う。
 このまま時間が過ぎて行くのだと、そう思っていた。
「えっ……?」
 噴水に目を奪われていた彩希の体を鏡夜の腕が捉える。
 戸惑う彩希を抱き寄せ、力強く抱きしめる。
「私は貴女が好きです。今の私にとって、貴女こそが唯一の存在なのです」
 耳元で囁かれた言葉にきょとん、としたままの彩希に鏡夜はもう一度微笑んだ。
「貴女は、いかがですか?」
 開きかけた彼女の唇を押さえて、鏡夜はさらに言葉を続ける。
「ゆっくりで構いませんから」
 今までと変わらない鏡夜の微笑み。
 唇に触れる鏡夜の指先から、すぐ側で微笑む彼の顔に彩希は視線を移す。
 互いの瞳には相手しか写らないそんな距離で見詰め合う2人。
 彼の思いは伝わっただろうか。
 聖夜に動き出した2人の思い。
 それは加速していく思いの始まり。



イラストレーター名:しんり ミツバ