●『愛の逃避行』
「今日はゆっくり過ごさないか?」 今日はクリスマス。戒璃は、つい先日恋人同士になったばかりの瞳を誘っていた。瞳は、戸惑っているような様子を見せたが、頷いた。 「うん。それも良いかもしれない」 そうして、二人はイルミネーションを見に出かけることになった。街の中には、カップルと思われる人達で溢れていた。 「やっぱ、今日はカップルが多いな。クリスマスだからやろか」 「そ、そうね……。私達も……そうだし……」 ぎこちない会話。なかなか言葉が出てこない。顔を見合わせてみたところで、何にも言えなくなってしまう。 (「でも、何か話すきっかけを作らんと……」) 戒璃は、瞳の左手を取る。そして……取り出したのは、細身の指輪。それを、瞳の薬指にはめたのだった。 「ゆ、指輪!?」 瞳は、びっくりしてしまった。一瞬、何が起こったのかわからなかったのだ。しかし、指輪の感触を感じているうちに、事態を飲み込めて……真っ赤になりながらも、その表情は嬉しそうで。 「わ、わ……」 瞳は、指輪をつけられた左手を、右手で包む。とてもとても、愛おしいものを包むように。 「……あ、ありが、とう……」 しどろもどろなお礼を、とても嬉しそうな表情で瞳が言う。戒璃は、その姿をとても愛おしく思う。その姿に見惚れていると、自分の指にも指輪がはめられていることに気づく。瞳も、戒璃のために指輪を用意していたのだ。 そうして、二人は幸せそうに笑いあい、二人の時間が続く……と思われたのだが、二人は気づいてしまった。そこの物陰に、見知った顔がちらほらと確認できることに。 「また、あいつらか……」 こんな時に、邪魔されたくない。戒璃はそう思い、瞳をお姫様抱っこする。 「瞳。逃げるで。しっかり捕まって」 「あ……うん!」 瞳は、この体勢に照れ笑いして、戒璃にしっかりと身を任せる。瞳の手がしっかりと自分を掴んでることを確認した戒璃は、走り出した。
いつだって、二人の恋は全力。誰にも、邪魔は出来ない。邪魔なんてさせない。 二人の恋は、始まったばかり。
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