月夜・ノブハル & 宮月・あかり

●『The Day That Love Began』

 冬の空が赤い夕暮れから、深い夜の色へと変わる頃、クリスマスイブに賑わう街は、よりいっそう輝きを増す。
 葉を落とした木々を彩る電飾が、温かい光で夜の街を照らしていく。
 並木通りの左右に植えられた、常緑樹の植え込みも淡く光る電飾で飾られて、通りを歩く恋人たちを楽しませている。
 その流れに乗って、ノブハルとあかりもゆったりと並んで歩く。
 動物や、童話、乗り物など、並木道の途中にはたくさんのイルミネーションが飾られて、2人はその前で足を止めてはのんびりと眺めていた。
 緊張しながらの、2人のデートだったが、穏やかな雰囲気に徐々に自然体へと戻っていく。
「あっ先輩。あの飾り可愛いですね」
 あかりがイルミネーションの一つを指差して、ノブハルを振り返る。
「ん、そうじゃのぅ」
 何となく、落ち着いてみれば、今日は随分と冷える気がする。
 あかりの笑顔を見ていても、ノブハルはそれが気になった。
「宮月、寒ぅないか?」
「えっ?」
 心配そうに彼女を見つめるノブハルの視線に、あかりは急に体温が上がったような気がした。
「あの……少し」
「お、そいじゃコート貸してやるけぇ……って、それでええか?」
 耳まで真っ赤になりながら、小さくあかりが頷くと、ノブハルは自分のコートを脱いで、あかりの肩にそっとかける。
 すっぽりとコートに包まれたあかりの姿に、ノブハルは満足そうに笑う。
 まだ赤い頬を押さえるようにしながら、あかりはノブハルと歩き出した。
 やがてイルミネーションが途切れ、大きく開けたそこからは夜の街が見える。
 クリスマスを祝う光に満たされた街は、いつもよりもずっと綺麗で、あかりは夢中になって街を見下ろす。
「手、冷たいのぅ……」
 そんな、彼女の小さな手を、ノブハルがそっと握る。
 恥ずかしそうな、彼の横顔を見上げて、あかりも微笑みながらその手を握り返す。
「ずっと繋いでたら……温かくなりますよ」
 2人の呟くような言葉は、きっと2人にしか聞こえないだろう。
 そして手を繋いだまま、おしゃべりをする間に、ぽつりとノブハルが呟いた。
「来年も、また一緒に来ような」
 あかりへの愛情の込められた一言に、彼を見上げていたあかりも頷く。
「はい。来年も……また」
 幸せそうな彼女の笑顔に、ノブハルは照れながら繋いだ手に力を込めた。
 やがて、名残惜しそうにしながら、2人は並木道へ戻っていく。
 寒い夜でも、2人の繋いだ手は温かい。
 きっと、来年の冬も……。



イラストレーター名:ピグ