●『聖夜でも関係ないんです。』
「勉強にメリークルシミマス……な~んてね」 絵毬は気分を紛らわすように冗談をこぼす。 世間ではクリスマスだというのに、自分達は勉強に取り組まなければならない。 それもそのはず、絵毬は高校三年生。将来の進路を決める大事な時期である。 今はクリスマスパーティーを兼ねた、受験勉強の真っ最中だ。 苦手科目である数学の問題とにらめっこ中の彼女と同じように、数学の参考書と格闘しているのはヴェティルだ。 彼も絵毬と同じ受験生であり、同じく数学が苦手。思えば似たもの同士である。 「駄目だ、さっぱり解けない……ここはどうすれば良いと思う……?」 文系のヴェティルにとって、数学は鬼門。思わず弱音を吐いてしまう。 「えーと、これは多分こう?」 少々自信なさげに走るペン。 「成る程、そう解くのか……でも、その計算、間違ってるぞ……」 「えっ! 間違ってる!? どこどこ!?」 絵毬はペンを走らせたノートを凝視する。 しばし見つめたあと。 「本当だ、ごめん」 消しゴムで文字をこすると、簡単に文字がきえてゆく。 こする手を止めて、ふと絵毬は思った。 こうして皆やヴェティルと共にいられる時間は、あとどのくらい残されているのだろう。 苦手な数学の問題も、友達と一緒ならば楽しい。それだけで毎日幸せだ。 だから、その分寂しさが増していく……。 お互いに高校三年生。卒業すれば、今のように一緒に勉強することもないのだろうか……。
ヴェティルの横顔を気づかれないよう、ひそかに見つめる。 いつもより少しだけ近い顔、ヴェティルとの距離。 絵毬の胸が高鳴った。なぜかはわからないが、嬉しい。 「あ、クッキー食べよ」 自分の気持ちに疑問を抱きつつも、絵毬は目に映ったクッキーを手にする。 ジュース、クッキー、コーヒーゼリー。これらはすべて結社仲間が差し入れてくれたものだ。 おいしそうな香りにつられてか、忘れていた空腹感を思い出した。 「俺も食べよう。どうだ?」 「うん、おいしいよ」 しばしの休憩時間。勉強は大して進んでないが、こうした時間は良いとヴェティルは思った。 同じ問題に取り組み、共に頭を悩ませる。 「メリークルシミマス……か」 こんな経験ができるのも、きっと今年で最後。
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